沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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122)ビッグダディの本業の話

 御存知、「痛快!ビッグダディ」。
 テレビ朝日系列で、何と30回(!)もシリーズ放映されているという超人
気番組だ。

 テレビで放映された「大家族」モノは30家族以上もあるらしいが、シリー
ズ化されるだけでも珍しい中、ずば抜けた「お化け番組」と言える。

 いつ頃からだったろうか、我が家でも、この番組が放映されると、よほどの
ことがない限り、毎回、家族全員で視聴し、ああだ・こうだと評論(?)し合
いながら、我が家の「プチ幸せ」を噛み締めつつ(笑)、つかの間の家族団ら
んを楽しんだりしているのだ。

 この番組の主人公ビッグダディこと林下清志氏、このほど「ビッグダディ
の流儀」(主婦と生活社)なる本を出したんだとか。

 んでもって、別れた妻も「ハダカの美奈子」(講談社)なる暴露本を出すそ
うな。

 何だか、笑っちゃう話だが、ビジネスとしては笑い事では終わらない。
 各出版社の読みでは、前者が15万部(!)、後者が30万部(!)の売上
を見込んでいるそうだ。
 やらしい話、印税だけでも、各人にウン千万の収入が入ることは確実。

 大家族モノと言えば、「とっても貧乏なんだけど、家族の固い絆に支えられ
て……」なんていうのが売りだったんだが、このビッグダディに至っては、
ちょっとしたサクセス・ストーリーになっちゃったねえ。

 自分の私生活「だけ」を売りにして、ここまで稼ぎ続けるというのは、今ま
でには無かったケースだろう。
 まあ、とっても真似はできないけど。

 放映30回分の出演料と本の印税。
 この林下氏という人、もはや、完全に「ビッグダディ」が本業だね。

 ある意味、「ビッグダディ」という役柄を完全に演じ切っている感すらあ
るし、日本一有名な「素人タレント」に違いない。

 そう言えば、この人のホントの本業は、柔道整復師。
 
 交通事故案件を多数やっていると、被害者が柔道整復師のお世話になってい
るケースによく遭遇するが、決してメジャーではないので、ビッグダディの
番組を見て、この国家資格を知った人も多いかも。

 柔道整復師が柔道整復術を行う施術所のことを「接骨院」「整骨院」「骨接
ぎ」(ほねつぎ)などと呼ぶ。
 
 医業というものは、基本的に医師にしか認められていないものだが、医業類
似行為として、特別に法で認められたものがいくつかあり、それぞれに国家資
格が定められている。

 柔道整復術もその1つだ。

 柔道整復術というのは、骨折・脱臼・捻挫・挫傷などの損傷に対し手術をし
ない「非観血的療法」という独特の手技によって整復や固定を行い、人間の持
つ自然治癒能力を最大限に発揮させる治療術(ウィキペディアより引用)との
こと。
 
 何を言っているのかよく分からん説明だが、要するに、骨折・脱臼・捻挫・
挫傷の4つにおいては、身体を切ったり投薬をしたりしない方法なら治療(施
術)してもいいですよ、という話だ。

 先日放映された「痛快!ビッグダディ」では、「腰痛患者」に対して、ビ
ッグダディが「マッサージらしきもの」を施して施術をしていた。

 腰痛にもいろいろあるが、腰痛の原因が「捻挫」か「挫傷」なら柔道整復師
の施術でOKということになる。

 捻挫というのは、靱帯の損傷である。
 靱帯というのは、骨と骨をつなぐ組織だ。

 挫傷というのは、皮膚の損傷がない筋肉や腱・内臓等の損傷である。
 腱というのは、骨と筋肉をつなぐ組織だ。

 交通事故による傷害の9割以上を占めるであろう「むち打ち症」の医師によ
る診断名は、だいたい「頚椎捻挫(頚部捻挫)」「頚部挫傷」「外傷性頚部症
候群」のどれかである。

 多くの場合、むち打ち症というのは、患者本人の自覚症状に依拠する。
 損傷しているのが靱帯でも筋肉・腱でも、レントゲン等の画像に写らないの
で、捻挫か挫傷かはホントは医師にもよく分からないはずだ。
 だから、外傷性頚部症候群という表現をしておくのが最も無難ということに
なるが、捻挫でも挫傷でも大した違いはないという感じで適当に書く医師も多
いらしい。

 でも、厳密には、損傷の程度としては、捻挫の方が挫傷よりも「重い」わけ
だから、自賠責保険料率算出機構では、推測される受傷の状況から頚部の生理
的可動範囲を超えていたと思われる場合には頚椎(部)捻挫、それ以下の場合
には頚部挫傷と区別した方がより正確である、としている。

 ちょっと話が逸れたが、腰痛治療はOKだとして、マッサージらしきものが
OKかという別の問題がある。

 実は、マッサージというのも医業類似行為なので、医師と「あん摩マッサー
ジ指圧師」という国家資格者以外には許されていない行為だ。

 その点を規定した「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する
法律」という法律があり、第1条で「医師以外の者で、あん摩、マッサージ若
しくは指圧、はり又はきゅうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マッ
サージ指圧師免許、はり師免許又はきゅう師免許を受けなければならない。」
と明記されているのだ。

 だが、柔道整復師の場合、柔道整復術の前後に関節周囲の筋肉の緊張を緩め
るなど「基本となる柔道整復術に付随する必要がある場合」にはマッサージも
OKらしい。
 但し、マッサージ自体を「治療の主たる手技」として行うことは禁止されて
いる。

 ということで、腰椎捻挫・腰部挫傷に起因する腰痛を治療するために必要な
範囲でのマッサージはOKという結論。

 ん?
 でも、そもそも「マッサージ屋」なんて、そこら辺に一杯あるんじゃね?と
思った人は、ごもっとも。
 違法マッサージはたくさんあるけど、ちゃんと取り締まっていないというの
が実態。
 マッサージという言葉をダイレクトに使うとすぐに捕まるので、ネーミング
は店によってバラバラだが、本気で治療する目的なら、国家資格者のいる所でど
うぞ。

 ちなみに、厚生労働省は、マッサージの定義を「体重をかけ、対象者が痛み
を感じる強さで行う行為」としている。
 リラクゼーション目的のものや単なる肩揉みなんかを除外するためだろう。

 で、なんでこんなことを書いたかと言うと、私の知人に独立開業している柔
道整復師がいて、「マッサージ」がらみでトラブルになることが多いと聞いた
ことがあるからだ。

 柔道整復師による施術は、医師同様、健康保険が使える。
 だから、「肩こりのマッサージ」を「健康保険」でやってもらえれば、そこ
らへんのマッサージ屋に行くよりも随分と安上がりというワケ。

 で、接骨院=「保険のきくマッサージ屋」と誤解している患者も多いらし
く、「肩こりなんだけど、保険使ってマッサージしてくんない?」なんて調子
で依頼する患者が多いんだとか。

 当然、骨折・脱臼・捻挫・挫傷の4つしかダメだから、「う~ん。肩こりじ
ゃねえ……。」と言うと、患者が怒って帰って行くパターンになるそうだ。

 もちろん、肩揉み程度ならマッサージに該当しないのでOKなんだけど、肩
揉みだけじゃ保険は使えないしね。

 まあ、そんなバカ正直に対応していたのでは「食えない」ので、適当に脱臼
とか捻挫・挫傷とかいうことにして、保険利用でマッサージしてしまっている
ことも多いらしいんだけど……。
 たまに、柔道整復師による不正請求のネタがマスコミで報道されるけど、こ
ういった背景からだ。

 それにしても、ホントに不思議な国家資格だ。
 おそらく、とっても複雑な歴史的経緯で認められた資格なんだろうけど、完
全に整形外科医の医療行為とバッティングしてしまうので、施術所を経営する
上でのマーケティングは極めて難しいはず。
 普通の感覚では、交通事故での怪我は整形外科で治したいものねえ。

 でも、柔道整復師が整形外科医よりもマーケティング上で優位に立つ点が3
つほどあるようだ。

 1)料金の「安さ」
 2)待ち時間の「短さ」
 3)治療時間の「長さ」

 交通事故の100%被害者で、加害者がキチンと保険加入している場合なん
かは、価格面は全く気にならない。

 だが、治療時間の「長さ」というのは結構大切なようだ。
 整形外科だと、数分程度の治療で終了してしまうことが多いけど、接骨院だ
と30~40分程度の治療が一般的なので、何だか「治療してもらってる!」
という実感を覚えて満足する患者が多いらしい。

 交通事故案件で、柔道整復師をよく見かけるのは、こういう「メンタル」な
側面が大きく影響しているのかも知れない。

 そう言えば、うちのすぐ近所にも1つあったよなあ。
 しかも、整形外科の真ん前に……。
 あっ、でも、今はもう無いっす……。