128)遭難救助と税金
- 2013年6月24日
- 社会・雑学
今月21日、小型ヨットにて太平洋横断に挑戦していた読売テレビのキャス
ター・辛坊治郎氏と全盲の鍼灸師・岩本光弘氏が、ヨットへの浸水により遭難
する事態となったものの、海上自衛隊による懸命の救助活動の結果、無事、奇
跡的に救助されたというニュースが飛び込んできた。
今回の救出劇は、辛坊氏らの迅速・適切な判断と行動、海上自衛隊の保有す
る世界一の救難飛行艇の存在、海上自衛隊員の有能さと懸命さ、遭難地点がプ
ロペラ機が到達できる距離にとどまったこと等々、複数の奇跡的要素が重なり
合った結果だと言われている。
ただ、一方で、冒険による遭難に多額の税金が使用されたことに対する批判
も一部では見られるようだ。
今回の救出劇に使用された税金は、ざっと1000万円~2000万円程で
はないかとのこと。
今朝のワイドショーでも、番組独自のアンケート結果では、4割くらいの人
が「本人に費用を請求すべきだ。」と回答したらしい。
まあ、単なるアンケートだし、熟考した末での回答ではないので、その理由
は相当に短絡的だ。
番組で紹介されていた理由は大きく2つで、冒険という身勝手な目的のため
に税金が使用されるのはけしからん!という類のものと高額所得者なんだから
払えるでしょ!という類のもの。
どちらも、明らかに合理的な理由ではない。
確かに、冒険は「身勝手な」目的かも知れないが、じゃあ、レジャーは身勝
手な目的ではないのか?
もっと言えば、仕事だって、自分自身が金を稼ぐ為という意味では十分に身
勝手なものに違いなかろう。
今回、この冒険が成功していたならば、全盲者と健常者のペアによる太平洋
横断というのは「世界初の快挙!」ということだった。
当然、マスコミは大々的にその快挙を賞賛したであろうし、このことで大い
なる勇気をもらって発奮する国民も多数いたに違いない。
だから、この冒険は、単なる身勝手なものではなく、社会的に大変意義のあ
るものだったという見方もできる。
つまり、目的による区別なんて到底出来ないということだ。
では、高額所得者に対しては費用を請求すべきなのか?
いやいや、国や自治体を1つの経済主体と見るならば、高額所得者は、今ま
でたくさんの税金を納めてくれた「大いなる貢献者」であるし、これからも、
たくさんの税金を納めてくれるであろう「上等のお得意様」だ。
むしろ、高額所得者こそ、こういう時に若干の恩恵を受けてもバチはあたる
まい、とも言える。
結局、所得で区別するなんてのもナンセンスということ。
そう言えば、田中康夫氏が長野県知事時代に、県有ヘリコプターによる山岳
遭難救助を「有料化」にすると宣言して話題になったことがあった。
結局、その宣言が実現することはなかったけど。
でも、この田中氏の有料化宣言は、もうちょっと「考えさせられる」理由が
あったのだ。
今回のような海難事故の場合は、民間による救助というものはあまり想定さ
れないが、山岳遭難事故の場合は、警察・消防・自衛隊・民間の4者どれもが
出動可能性ありということになる。
自衛隊の場合は、極めて特殊な遭難事故に限定されようが、警察・消防と民
間の明確な選別基準は特に無い。
おそらくは、県有ヘリコプターから先に出動するという運用になっているの
だろうが、県有ヘリコプターが出払っていれば、民間ヘリコプターが出動する
ことになる。
民間ヘリは、1分あたり1万円が相場と言われるので、仮に捜索に2時間を
要したら120万円(!)が請求される。
加えて、救助隊員の日当も1人1日3~5万円が相場だ。
一方、県有ヘリなら県税で賄われるので、遭難者の負担は全く無い。
これは、ひとえに救助要請の「タイミング」だけによる極めて理不尽な「不
公平」と言える。
このあたりの事情を分かっている遭難者は、救助要請の際に「県警ヘリで救
助に来て下さい!」と念押しするという。
もちろん、遭難者に選択権は無いので、民間ヘリでしか救助に行けないとい
うことになると「それなら自力で下山します。」と言うバカ者もいるらしい。
いずれにせよ、この「不公平」は是正すべき問題に違いない。
だが、だからと言って、一律、遭難者に費用を請求するというのは間違いだ
ろう。
前述の「自力で下山します」と言った者と同様、多額の費用が掛かることを
懸念して、救助要請自体をためらう者が続出する可能性が生じるからだ。
日本国民の尊い命が失われることは、日本国にとっても大損失である。
やはり、税金を大いに使って、懸命に救出活動をすべきものである。
と言うことは、民間による救出の際の費用を何とかせねばならないというこ
とだ。
もちろん、その費用を税金で補填するなんてことは不可能だ。
じゃあ、どうすれば?
まさかのリスクに備えるもの、と言えば、やはり「保険」だ。
山岳保険などという名称で、遭難捜索費用が補償対象になっているものが多
く存するらしい。
保険料も、年間で数千円程度とのこと。
この程度の負担さえしていれば、民間救助でも困ることはないということな
らば、まあ、保険加入を怠った登山者については、「自己責任」の一言で片付
けられてもやむを得ないのかも。
今や、自動車を運転する者が自動車保険に加入するのは「常識」であり、保
険に加入しない者が自腹を切ることに誰も同情はしないはず。
同様に、より冒険的要素の強い高リスクの登山を敢行する者が山岳保険に加
入せず、その者が高額な自腹を切る事態に陥ったとしても、同情すべきことで
はないのだ。
つまり、登山者への保険加入を徹底しさえすれば、救助要請の「タイミン
グ」による理不尽な「不公平」は是正されるワケだ。
今後は、富士山が「世界遺産」に登録されたことで、富士登山も盛んになる
に違いない。
にわか登山ブームが到来することも必至だ。
このブームに乗って登山を始めようと思っている人は、絶対に山岳保険への
加入を肝に銘じるべきである。
それにしても、今回の件だって、税金の投入額は1000万円~2000万
円程度の話である。
ホントは、こんな小さな「税金問題」を議論するよりも、早いとこ、議場で
居眠りしている国会議員を1人でも多く減らして欲しいんだけどね。
何しろ、国会議員1人あたり、年間1億円以上の「血税」が投入され続けて
いるんだから。