沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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145)印紙税のフシギ

 昨年末、新たに顧問契約を結ばせて頂いた顧問先の社長より、「顧問契約書に貼る印紙はいくらになりますかねえ?」との問い合わせを頂戴した。

 結論としては、弁護士と交わす顧問契約書は原則として「非課税」である。
 つまり、印紙を貼る必要はないということ。

 多くの事業者にとっては、文書に印紙を貼るのは当たり前で、印紙税は非常に身近で、かつ、関心深いものなのであろうが、実は、弁護士にとっては、印紙税はかなり縁遠いものと言える。

 印紙税とは、法律で規定された「課税文書」を作成する際に、当該文書に印紙を貼り、印紙に消印をすることで納税するという変わった税制なのだが、弁護士が弁護士業のために作成する文書は、ほぼ「非課税文書」であるからだ。

 印紙税法では、印紙を貼る必要がある課税文書を列挙している。
 主なものは、次のとおり。

* 不動産等の譲渡契約書
* 地上権または土地の賃借権の設定または譲渡の契約書
* 消費貸借契約書
* 運送契約書
* 請負契約書
* 継続的取引の基本契約書
* 債務保証契約書
* 債権譲渡契約書、債務引受契約書
* 金銭又は有価証券の受取書

 弁護士が依頼者と交わす契約は「委任契約」である。
 簡単に言えば、委任契約とは、他人を「信頼」して「事務処理(=行為)」を委託する契約のことである。
 印紙税法においては、委任契約書は、どういう訳か課税文書とはされていない。
 つまり、弁護士と交わす顧問契約書も委任契約書に該当するので、非課税というワケ。

 じゃあ、委任契約と請負契約(=課税)は何が違うの?ということになろう。

 請負契約というのは、依頼した仕事の「完成(=結果)」を目的とする点に特質があり、仕事が完成されるならば下請に出してもよいが、その仕事を完成させなければ、債務不履行責任を負うような契約である。
 まあ、結果に対して金を出すのか(請負)、行為に対して金を出すのか(委任)という違いである。

 つまり、弁護士との契約であっても、請負契約の要素が混入していれば、課税文書となる可能性はあるワケだ。
 例えば、税理士との顧問契約などは、税務書類等の作成(=仕事の完成)を目的とし、これに対して一定の金額を支払うことを約する内容が混入しているので、請負契約書に該当し、印紙税が課されるようだ。

 次に、われわれ弁護士が依頼者から金銭を受領した際、領収証には印紙を貼付しない。
 なぜか?
 

 印紙税法では、「金銭又は有価証券の受取書」であっても、受け取った金銭などがその受取人にとって「営業に関しないもの」である場合には、非課税とされている。

 ん?弁護士業だってビジネスじゃん!
 ビジネスである以上、もろに「営業」なんじゃね?と突っ込まれそうだ。

 だが、これもどういう訳なのか、国税庁の「印紙税法基本通達」によれば、「弁護士、弁理士、公認会計士、計理士、司法書士、行政書士、税理士、中小企業診断士、不動産鑑定士、土地家屋調査士、建築士、設計士、海事代理士、技術士、社会保険労務士等がその業務上作成する受取書は、営業に関しない受取書として取り扱う。」とされている。
 同様に、「医師、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、保健師、助産師、看護師、あん摩・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師、獣医師等がその業務上作成する受取書は、営業に関しない受取書として取り扱う。」とのこと。

 ちなみに、個人としての弁護士ではなくて「弁護士法人」という法人組織が作成する書面は営業に関するものとなり、課税されてしまう。

 う~む、よう分からん。
 その課税根拠といい、課税・非課税の区別といい、印紙税というのは、ホントにフシギな税制だ。

 まあ、税金というのは、「生かさず殺さず」搾り取るというのが昔からの因襲なので、課税の理屈なんて考えても仕方ないんだけどね。

 税金は、大きく分けると4つに分類できる。
 収得税・財産税・消費税・流通税の4つである。

* 収得税=人が「収入」を得ている事実に課せられる税金。
      所得税、住民税、事業税など。
* 財産税=人が財産を「所有」している事実に課せられる税金。
      固定資産税、自動車税、相続税・贈与税など。
* 消費税=人が商品やサービスを「購入」する事実に課せられる税金。
      消費税、酒税、タバコ税など。
* 流通税=人が権利を「取得」した事実に課せられる税金。
      登録免許税、印紙税、不動産取得税など。

 印紙税は、上記のとおり流通税に属するワケだが、結局は、税金を支払う能力のある人からは、取れるだけ取りたいというだけの話。
 税金を支払う能力のことを「担税力」といい、税制におけるキーワードとなる。

 まずは、その年の「収入」があれば、十分な担税力があると推定できるので、収得税が税制の基本となる。
 収入というのは、担税力をフローの側面から計る尺度だ。

 でも、同じ年収でも、そのストック(貯蓄)はバラバラ。
 年収300万円でも、ストックが1000万円あるなら、ストック100万円の人よりは格段に担税力があり、たくさん税金を支払ってもらえるはず。
 課税当局としては、何とかこのストックに課税したいと考えるが、ストックそのものを把握することは難しい。
 預金残高に課税すれば、みんな「タンス預金」にしてしまうので、金融経済が破綻する。

 で、収得税を補完するのが財産税・消費税・流通税というワケ。
 ストックがたくさんある人は、結果的に、たくさん「消費」して、たくさん財産を「取得・所有」し、そして、自身で使い切れなかったものは子孫に遺産として「残す」ことにもなるから、財産税・消費税・流通税を巧みに組み合わせることで、大きなストックを持っている人からジリジリと税金を搾り取り続けることができるという仕組みだ。

 私自身も、これまで、所得税・住民税・事業税・消費税・固定資産税・自動車税など、あらゆる税金を納め続けてきたよなあ。ちなみに、弁護士登録する際にも「登録免許税」(6万円)なんていうのも納めたよねえ。国保だって、国民健康保険税という立派な税金だ。
 
 毎年、確定申告をしているから、納税額の累計もキッチリ把握しているけど、官僚や政治家によるバカな使い方を見ていると悲しくなってしまうので、「うん、これだけ社会貢献してきたんだ!」と自分に言い聞かせるしかないよね。
 

 まあ、子供たちに相続税が課されるほどの遺産を残すこと自体が難しい世の中だし、個人的には、セカンド・ライフでパーッと夫婦で使い切ってしまうつもりなので、子供たちよ、将来のことは許しておくれ(笑)。