178)薄利多売と厚利寡売
- 2015年3月29日
- 経済・ビジネス
日本一有名な親子ゲンカ。
3月27日(金)、こう揶揄された親子ゲンカに一応の決着がついた。
大塚家具の例の「経営権争い」だが、娘の大塚久美子社長の提案に61%の株主が賛成し、父で創業者の大塚勝久会長の提案に賛成した株主は36%にとどまった。
結果、勝久氏は、取締役を退くこととなった。
大塚家具は、れっきとした上場会社なのであるから、本来は、純粋な「経営戦略」に関する論争に終始すべきであったが、勝久氏の「何人かの悪い子供を作った。」といった???発言には、違和感・嫌悪感を覚えた方々も多かろう。
勝久氏は、株主総会でも、「クーデターによって、社長の座を奪われた大塚でございます。」などと切り出し、株主に向かって、「会社が10年前、15年前に戻れるようにしたい。元気な会社になるのに1年、2年かからないと思う。会社が悪くなったのではない。会社を悪くしてしまったんだ。私がこれだけ深刻に考えているということが伝わらないのは残念。存続できるのは私しかいないと思っている。」と締めくくったのだそうだ。
結局、勝久氏の発言からは「私怨」以外には何も汲み取ることができず、一般株主は、さぞかし嫌気がさしたことだろうね。
まあ、久美子氏に軍配が上がったのは、至極当然のことだったのだろう。
とは言え、家具業界における「経営戦略」の立案は、かなりの難問だ。
勝久氏は、自身の成功体験を踏まえ、会員制の高級家具まとめ買いという「高級路線」に回帰したいと主張し、久美子氏は、中間所得層をも取り込んで、気軽に入店できるような「カジュアル路線」に移行したいと主張した。
世の中のビジネスモデルは、「薄利多売」と「厚利寡売」(こうりかばい)の2つに大別できる。
ここで言う「利」とは「付加価値」のこと。
つまりは、「粗利(=販売価格-仕入価格)」と考えれば分かり易い。
粗利が少なければ(薄利)、たくさん売る(多売)しかない。
粗利が多ければ(厚利)、たくさん売れなくても(寡売)OKだ。
逆に、たくさん売りたいなら、低価格(薄利)が絶対条件だし、
ニッチ市場に切り込むなら、そもそもにおいて、たくさん売れっこないんだから、高付加価値(厚利)が絶対条件だ。
要するに、「薄利多売戦略」でいくなら、
1)差別化できるほどの低価格
2)低価格を実現するための生産体制
3)顧客数増大のためのプロモーション
などがクリアーすべき経営課題となる。
また、「厚利寡売戦略」でいくなら、
1)高価格に見合うだけの高品質
2)高品質を実現するための人材育成
3)顧客単価増大のためのブランディング
などがクリアーすべき経営課題となる。
ところが、勝久氏の「高級路線」にしろ、久美子氏の「カジュアル路線」にしろ、明確な「薄利多売戦略」や「厚利寡売戦略」ではなく、どっちつかずで「中途半端」なのだ。
勝久氏の「高級路線」は、「厚利寡売戦略」と親和性がある。
だが、勝久氏の思いは、要するに「昔に戻りたい」というだけで、今よりも顧客数を増やして、売上高をアップさせたいというもの。
言ってみれば「厚利多売」にしたいということに尽きるのだろう。
もちろん、そんなことは無理だ。
確かに、「厚利多売」を実現している企業もある。
ユニクロなどが典型だ。
でも、これは、企画・開発・製造・販売を自社1社でやる仕組みを確立し、本来なら分散していた利益を1社で独占することで実現した特殊事例。
大塚家具の場合、顧客ニーズを満たす「高付加価値」を提供できなくなったからこそ、顧客数が減少したのだろうから、プロモーションに力を入れたところで、顧客数は回復しない。
そもそも、「厚利寡売戦略」というのは、特定のニッチ市場をターゲットにするのだから、売上高をアップさせたいなら、顧客数の増大ではなく、さらなる高品質化や多品種化による「顧客単価」の増大しか選択肢はない。
一方、久美子氏の「カジュアル路線」は、「薄利多売戦略」と親和性がある。
だが、久美子氏は、「高所得層」を主要顧客としたまま、「中間所得層」をも取り込みたいということなのだが、それは結局、「高級路線」に十分満足している現在の顧客離れを誘発しかねない。自分たちの「VIP感」が薄まってしまうからね。
それに、大塚家具は「小売」に過ぎず、家具メーカーとしての「ブランド」を確立しているワケではないから、そもそもの話、中間所得層が大塚家具での家具購入に「憧れ」を抱いているのか大いに疑問だ。
中間所得層に関して言えば、ニトリやIKEAが本格参戦してくれば、まず勝ち目はない。
そして、現在の家具業界で「薄利多売戦略」に移行して、ニトリやIKEAと戦うのも無謀だ。
だが、国民全員がニトリやIKEAで満足するはずもない。
我が家の家具も、そのほとんどを「岡本総本店」で購入している。
四日市に本店を構える三重県のローカル家具店だ。
我が家同様、同店で家具を購入して満足している三重県民も多いはず。
やはり、家具は、ショールームに行って、ああだこうだ言いながら買いたいもの。
そんな時、地元に優良ローカル店があれば、わざわざ遠くの有名店に行く必要はない。
だからこそ、「厚利寡売戦略」を貫くなら、「スモール・ビジネス」でOKなんだよね。
身も蓋もない言い方をすれば、大塚家具は、上場したこと自体が間違いだったのでは?
上場しちゃうと、絶え間なき「成長」が求められ続けるが、「高級路線」で成長し続けるということ自体、至難の業なんだよね。
上場なんかせずに、小じんまりとした「家族経営」に徹していれば、今みたいな「家族不和」を招くこともなかったろうに。
ということで、当事務所は「スモール・ビジネス」で突っ走り続けます!!