沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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180)日弁連なる組織

弁護士会の会長任期も終了し、ホッと一息ついている日々。
それにしても、任期中はホントに多忙を極めた。

でも、「業界団体の会長職なんて名誉職でしょ?何で、そんなに忙しいの?」
なんて言う人もチラホラいたし、中には、「俺も、協会の役員をやったことが
ある。そんなに忙しい訳がない!」とクレームまで言う人もいたので、エクス
キューズも含めて、ちょっと説明しておきたい。
まあ、興味のない人にとっては、面白くも何ともない記事になりそうだが、し
ばし、お付き合いの程を。

弁護士という資格は、士業の中でも、かなり特殊だ。
何が特殊かというと、まずは、「監督官庁が無い」ということ。
監督官庁の無い資格は、弁護士が唯一である。
これは、時として、国家権力とも対峙すべきことが要請される仕事ゆえ、国家
権力に監督されること自体がダメ!という発想に由来する。

では、弁護士を監督するのは誰なのか?というと、
それが弁護士会なのである。

弁護士法31条では、次のように規定されている。

「弁護士会は、弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を
保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士及び弁護
士法人の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。」

つまり、弁護士会は、弁護士を「指導・監督」するのが目的の団体なのであっ
て、弁護士の「相互扶助」や「地位向上」を目的とした「業界団体なのではな
い」ということ。

もちろん、指導・監督の延長線上には、「懲戒権の発動」という最終手段が用
意されており、弁護士会は、他士業であれば行政(監督官庁)が担うべき業務
をゴッソリと任されていることになる。

このように、弁護士会が弁護士の指導・監督・懲戒までを担う仕組みを「弁護
士自治」と呼ぶ。
弁護士自治を実践するだけでも、弁護士会には相当なマン・パワーが要求され
るのだ。

次に、弁護士には「法律上の使命」がある。

弁護士法1条では、次のように規定されている。

「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」

このような「使命条項」を有する資格も稀有であるが、弁護士は、この使命を
全うすべく、ありとあらゆる「公益活動」を実践している。
そのような弁護士の集合体である弁護士会は、必然的に「人権擁護団体」とし
ての性質を帯びてくる。
従って、対外的に強く意見表明をしたり、時の政権と激しく衝突したりするこ
ともあるのだ。

さらに、弁護士は「司法の一翼」でもある。
今でこそ、司法書士も司法の一部(簡裁)には関与するものの、司法に全面的
に関与する資格は弁護士だけである。
弁護士以外の士業が、「行政の補助職」であることと対比される。

司法は、国民の権利・義務関係を最終的に確定するもので、非常に強大な国家
権力作用である。
弁護士会は、その意味で「公権力そのもの」という側面も有しており、「司法
制度の基盤整備・運用改善」という重大な使命も負っている。

当然ながら、裁判所・検察庁とともに、司法改革に取り組むこととなる。
裁判所・検察庁・弁護士会は、「法曹三者」として、常に連携している。

以上のごとく、弁護士会は、単なる業界団体ではなく、弁護士の「監督団体」
であり、国家権力と対峙すべき「人権擁護団体」であり、さらに司法制度を担
う「公権力そのもの」でもあるということだ。

だから、やることが「山ほどある」のだ。

で、各地の弁護士会を統轄している全国組織が日弁連だ。
日弁連は、正式には「日本弁護士連合会」という。
この名称にも、弁護士の資格の特殊性が表れている。

普通、士業団体の全国組織は、「〇〇会連合会」となる。
例えば、こんな感じ。

日本税理士会連合会
日本司法書士会連合会
日本行政書士会連合会
全国社会保険労務士会連合会

要するに、司法書士の集まりが「司法書士会」で、その司法書士会が集まった
全国組織が「司法書士会連合会」という関係だ。

ところが、弁護士は、「弁護士自治」によって弁護士会から懲戒を受ける対象
であり、各地の弁護士会が下した懲戒内容に不服のある者は、日弁連に不服申
立をすることができる仕組みなので、日弁連という全国組織においても、弁護
士1人1人が「直接の会員」となっている必要があるというワケ。

従って、日弁連は、各地の弁護士会とともに、全ての弁護士が会員となってい
るという非常に珍しい組織だ。
故に、その名称は「弁護士会連合会」なのではなくて、「弁護士連合会」なの
である。

ちなみに、われわれ弁護士は、各地の弁護士会に対して会費を支払うととも
に、日弁連に対しても会費を支払っている。まあ、二重払いだ。
三重県の場合、三重弁護士会=月額3万4000円、日弁連=月額1万9000
円である(特別会費を含む)。

現在、日弁連に登録している弁護士は3万6500人ほど。
日弁連の一般会計は、単年度予算規模で60億円をはるかに超え、次年度繰越
金だって30億円近いというマンモス組織だ。

これは一般会計だけのことで、その他、いろいろな特別会計が存在し、
会館特別会計なんぞは、50億円もの資金がプールされ、年々膨張している。

当然ながら、近年、若手弁護士からは、世界一高いと揶揄される会費を下げ
ろ!という大合唱が続いている。

各地の弁護士会会長は、日弁連理事(大規模会は副会長)を兼務するので、自
身の弁護士会内部の職務に加えて、全国的課題とも向き合うことになる。

昨今のように、政権が「右傾化」すると、「人権擁護団体」としての日弁連は
ドンドン忙しくなるというワケだ。
昨年度も、集団的自衛権問題や取調べの可視化問題などで、国会議員回りや銀
座でのデモ行進などに理事全員が駆り出された次第。

日弁連理事会は、毎月2日~3日に渡り、朝から晩まで、ぶっ通しの議論が続
くので、終わる頃には、ホントにヘロヘロとなる。

だが、正直、ありとあらゆることを「やり過ぎ」という感も否めない。
日弁連は巨大になり過ぎて、組織が、かなり「官僚化」している気もする。
仕事量も組織も、グッと「スリム化」できる余地があるはず。

パーキンソンの法則というものがある。
英国の歴史学者・政治学者のパーキンソンが、英国の「官僚制」を幅広く観察
した結果に基づいて提唱した法則で、次の2つの法則からなる。

第1法則
仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する。

第2法則
支出の額は、収入の額に達するまで膨張する。

まあ、ウンウンと頷けるはずだ。
日弁連も、こうなっているんじゃないか?と強く感じる。

私は、弁護士会の副会長を平成14年度と18年度に経験した。
おそらく、その時と比較しても、日弁連から舞い込む仕事量は格段に膨張して
しまっているはずだ。
当然、支出額も年々膨張している。

日弁連の役員は、会長を筆頭に、13名の副会長、71名の理事、5名の監事
という構成(=全員弁護士)。

また、事務局も、事務総長(=弁護士)を筆頭に、6名の事務次長(=5名が
弁護士)、70名ほどの嘱託弁護士、160名ほどの一般職員という構成。

まあ、いくら何でも「でか過ぎる」よねえ。
それに、理事・監事以外は、基本的に、みんな「有給」だし。
この点は、各地の弁護士会の大半が、役員=「無給」なのとは大違い。

役員・職員等の人件費は、総額で17億円ほど。
一般職員の平均給与は700万円ほどになる。
当然、初任給は300万円ほどだろうから、「昇給」は確実ということ。
ひょっとしたら、司法修習生は、弁護士なんかにならずに、
日弁連に就職した方が、経済的には圧倒的に「トク」なのかもね。

ちなみに、弁護士会トップである日弁連会長の給与は、年間1800万円。
裁判所トップの最高裁長官の給与は、年間4000万円で、
検察庁トップの検事総長の給与は、年間2900万円。
こう比較すると、日弁連会長の給与は、決して高くない。
おそらく、法曹三者の中では、一番の「激務」のはずだものね。
大袈裟ではなく、自身の弁護士業務に費やす時間なんて1秒も無いらしい。

でも、そこまでの「激務」である必然性があるか否かは別問題だ。

役員も職員も、有給じゃなきゃ出来ない程、可哀想なくらいの仕事量なんだけ
ど、逆に、有給で働いているんだからということで、ドンドン仕事量が膨張し
続けているという側面もありそうな……。

このことは、三重弁護士会も「肝に銘じる」べき重要課題だね。

必要な「公益活動」にはドンドン支出する一方で、切り詰めるべきところは切
り詰めるという「コスト意識」は、絶対に必要だ。
特に、三重弁護士会の場合、新会館建設という大プロジェクトもあるし。

ということで、「何で、そんなに忙しいの?」という問いにお答えできたかど
うかは定かではないし、日弁連自身が、自ら「わざわざ忙しくしている」とい
う側面も無きにしもあらずなのだが、こういうワケだったのです。

まあ、今後は、言い訳もできないので、シッカリ頑張ります!