沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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184)マシュマロ・テスト

栃木県真岡市の民家で、21歳の女性が殺害された事件。

容疑者は、42歳の男性会社員。
この男、相当に「金に困っていた」ようで、会社務めの傍ら、夜間や週末には
牛丼屋でアルバイトもしていたのだという。

一方、被害者の女性は、「将来は飲食店を開きたい」と周囲に語っていたらし
く、自身の「夢」のために日頃からコツコツと貯金を続け、その若さからは想
像もできない800万円もの大金を蓄えていたそうだ。

何らかの事情で、この大金の存在が「金に困っていた」男の知るところとな
り、今回の愚劣かつ残忍な犯行の標的にされてしまったということか。

よくよく聞けば、この男、「住宅ローンの返済に困っていた」などと述べる一
方で、趣味の「車」への浪費を繰り返し、パチンコにも頻繁に興じ、さらに
は、妻子がありながらも、女遊びも相当に酷かったようだ。

つまり、少しは同情を引きそうな「生活苦」などではなく、身勝手で、バカみ
たいな散財が招いた末の「金欠」というに過ぎなかったのだ。

そんなショーモナイ「大バカ者」に、21歳の夢と希望に満ちた人生が台無し
にされてしまったという話。

この男に待ち受けているものは、もちろん「厳罰」のみである。
刑法240条によれば、強盗殺人罪の法定刑として用意されているのは、「死
刑」と「無期懲役」の2つだけだ。

まあ、この男が死刑になろうが、無期懲役の末に獄中死しようが、被害女性の
命は戻ってこないワケだが、この男の人生も、これにて「ジ・エンド」という
ことだけは間違いあるまい。

この報道に触れ、私の脳裏には、ふと「マシュマロ・テスト」という言葉が思
い浮かんだ。

4~6歳くらいの幼児を対象として、その子が「人生の成功者となるか否か」
が判定できる(?)とされるテストだ。

1968年、米国の心理学者のウォルター・ミシェルが4歳児を対象に行った
実験がマシュマロ・テストで、実験の内容は、次のとおり。

4歳児を小さな部屋に招き入れ、その子を机の前に座らせる。
机の上には、マシュマロが1つだけ置かれている。
実験者は、次の2つのことだけをその子に伝えて、部屋を出る。

「マシュマロをすぐに食べないで、15分間待つことができたら、もう1つマ
シュマロをあげるよ。」
「どうしてもマシュマロが食べたくなって、我慢できなくなったら、そこのベ
ルを鳴らしたら食べてもいいよ。」

4歳児が我慢できた平均時間は、約2分。
中には、ベルも鳴らさずに、すぐに食べてしまった子もいたそうだ。
そして、見事に15分間待つことができた子は、4人に1人。

この実験から12年後、マシュマロ・テストに参加した600人の子らの追跡
調査を実施したところ、1分以内にベルを鳴らした子らは、学校でも家庭でも
様々な問題行動を引き起こしていたのだという。
一方、15分間待てた子らは、群を抜いて学業が優秀だったそうだ。

要するに、このテストで判ることは、
ズバリ、「セルフ・コントロール能力(=自制心)」
の優劣ということ。

実際、15分間待てた子らも、やはり子供は子供なので、マシュマロは食べた
くて仕方がなかったのである。
でも、目を手で覆ってみたり、部屋の隅に立ってマシュマロを見ないようにし
てみたり、机を叩いたり蹴ったりして気を紛らわせてみたり、自分の髪をずっ
といじり続けてみたり、マシュマロをぬいぐるみに見立てて遊び始めてみた
り、と彼らなりの「ガマン戦略」を立てて、何とか長い長い15分間を乗り切
ったのである。

まあ、これって、結局は「投資」の発想そのものなんだよね。
未来の「大きな利益」を得んが為に、今の「小さな利益」を我慢する。
っていうことだもんね。

だから、マシュマロ・テストに合格した子らは、
上手に投資が出来る子=人生に成功し易い子
という図式が成立するんだろうね。

そもそも、動物の脳は、「今」を重視するように設計されている。
動物が生きる弱肉強食の世界では、
「今」目の前にある「エサ」をすぐに食べてしまわないと、次に、いつ食べら
れるか分かったものじゃないし、
「今」目の前にいる「敵」からサッサと逃げてしまわないと、自ら死を受け入
れることになってしまうからね。

ポール・マクリーンの「脳の三層構造説」によれば、人間の脳は、
第一層=爬虫類脳(自己保全)
第二層=哺乳類脳(社会活動)
第三層=人間脳(知的活動)

という三層構造なのだそうだ。

これは要するに、「古い脳の上に新しい脳が乗っかっている」状態。
爬虫類から哺乳類、哺乳類から人間へと進化する過程で、古い脳を取り壊し
て、その都度、脳が完全にリニューアルされたのではなくて、いわば、「ドン
ドン増築した」ということ。
従って、動物が「今を重視する本能」は、人間にも備わっているのだ。

マシュマロ・テストは、わずか15分間のことなので、大人なら我慢するのは
ごくごく簡単なことだ。
だが、この時間のスパンが長くなればなるほど、たとえ大人であっても、「今
を我慢して未来を待つ」という選択をするのは、相当に難しくなってくる。

例えば、
今なら1万円貰えるが、1年待てば1万1000円貰える、
今なら10万円貰えるが、5年待てば15万円貰える、
今なら100万円貰えるが、10年待てば200万円貰える、
という条件の場合、どれも迷わずに「未来」を選択できるだろうか。

いずれも、年利10%という高利なので、今の経済情勢下において合理的に考
えれば、「今」を選択するのは「愚の骨頂」ということなのだが…。

ある学者によれば、爬虫類脳や哺乳類脳には無く、人間脳が初めて獲得した能
力の最たるものが、「時間」を認知する能力なんだそうだ。
つまり、「今」しか認知できない動物とは違い、人間は、「未来」を明確に意
識することが出来るというワケ。
人間社会の目覚ましい発展も、この「時間認知能力」に拠るところが大だ。

そう考えると、マシュマロ・テストというのは、動物とは格段に違うという意
味での「人間らしさ」を判定するテストということなのかもね。

勿論、第三層の人間脳は、人生経験とともにドンドン発達していく。

今回の残忍な事件を引き起こした男は、42歳にもなって、趣味やギャンブ
ル、そして女遊びという、まさに「今、目の前にある快楽」の誘惑に全く打ち
克てず、自身と家族の「未来」を台無しにしたワケだ。

彼の脳は、第三層が「工事未了」のまま「放置」されてしまっていた、というこ
となのかねえ。