194)独立するということ
- 2015年9月19日
- 経済・ビジネス
先週の土曜日、高校(PL学園)の同期会が大阪で開催され、出席してきた。
廃部危機が噂される野球部OB連中も含め、100人近くが出席し、なかなか
の盛会であった。
まあ、ホントに30年ぶりの再会!という者もいたので、一瞬、誰だ?という
場面もあったが、全寮制で、まさに「同じ釜の飯を食った仲間」ゆえ、アッと
いう間に30年前にタイム・スリップした感じ。
社会人らしく名刺交換も盛んだったワケだが、貰った名刺の肩書は「代表取締
役」「執行役員」「部長」「課長」「所長」など、管理職級がズラリ。
我々同期は、46~47歳という世代。
名刺の肩書を見ると、改めて、社会の舵取りをする中心世代になってしまった
んだなあ、なんて実感した次第だ。
さて、そんな中、異色の人生選択をした者が1人いた。
彼は、20年以上勤めた大手コンビニ(本部)を退職し、大阪で「焼き鳥屋」
を開店すべく、今まさに、店舗探しをしている最中なのだという。
47歳で「脱サラ」して、飲食店を開業!!
普通の感覚であれば、今さら、そんな危なっかしい選択はしないものだが、勿
論、彼なりの「勝算」があってのことなんだろう。
コンビニ業界というのは、マーケティングの最先端を突っ走る業界なので、そ
こで培われたマーケティング手法は、必ず活きるはずだしね。
ただ、一般的には、脱サラしての独立起業というのは、失敗しやすい。
それは、「コスト・パフォーマンス」と「タイム・パフォーマンス」について
の「感覚のズレ」があるからだ。
コスト・パフォーマンスというのは、「費用対効果」のこと。
タイム・パフォーマンスというのは、「時間対効果」のこと。
裏を返せば、目標収益を達成するためには、
どれだけの費用投下(コスト)が必要で、
どれだけの時間投下(タイム)が必要なのか、
という「経営感覚」が必要不可欠ということだ。
まずは、コスト・パフォーマンスの話。
会社員に対して、「いくら稼げれば、脱サラしてもいいと思いますか?」と聞
くと、「月収50万円」と答える人が多いのだそうだ。
でも、彼らが思い描いている数字は、間違いなく「手取50万円」のことであ
り、「売上50万円」ではないはず。
税金も社会保険も「天引き」されている会社員の場合、「収入」として意識す
るのは「手取」だけである。
まあ、普通は、自分がいくら税金や社会保険を負担しているのかすら知らない
に違いない。
例えば、会社勤めのうちに必死で勉強した結果、見事、何らかの難関士業資格
をゲットし、「よ~し、何とか月収50万円くらいなら稼げそうだし、ここら
でいっちょ、独立してみるか!」と思い立ったとしよう。
士業の場合、自宅兼事務所で、事務員なし、ということなら、そう大した経費
はかからない。
そして、順調に事が進み、年間売上600万円をついに達成!!
でも、何だか「いつも金が足りない」状態だし、預金通帳の残高も、見る見る
減っていくばかり……。
何か、思い描いていたのと違う……。
まあ、そりゃそうなのだ。
たとえ、事務所家賃や人件費がゼロでも、経費が全くゼロのはずがない。
士業ならば、士業団体の会費をはじめ、消費税・個人事業税などの経費に含める税
金、通信費・旅費交通費・宣伝広告費・接待交際費・研修費・新聞図書費・消耗品費
などなど、それなりの経費が確実に発生する。
弁護士の場合、会費だけで、月額5万円超(!)だからね。
何だかんだで、月額15万円の経費が発生したとすれば、売上600万円から
残ったお金は420万円(=事業所得)である。
そして、ここから社会保険(国民年金・国民健康保険)を引くと、残ったお金
は、ざっと355万円ほど。
さらに、ここから税金(所得税・住民税)を引くと、手取として、手元に残る
お金は300万円ほどになってしまう。
つまり、「手取50万円」と目論んでいたのに、蓋を開けてみれば、その半分
の「手取25万円」ということ。
悲しいかな、これが現実なんだよねえ。
では、当初の目論見どおり、「手取50万円」を稼ごうと思えば、一体いくら
の売上を達成する必要があるのか。
手取25万円の2倍だから、売上も2倍でOKなんて思ったら、大間違い。
単純に、年間売上600万円を1200万円にしようと思えば、パートでもい
いから、事務員を雇用する必要があろう。
1人士業の場合、営業・仕入・生産・事務を全て1人でこなしている。
士業にとって、
営業とは、情報発信・人脈作りなどの「種蒔き」のこと、
仕入とは、学習・研究・研鑽などの「自分磨き」のこと、
生産とは、相談・起案・手続などの「稼ぎ」のことだ。
営業・仕入・生産の3つの活動については、士業資格者が、自ら実践せねばな
らないものばかり。
そして、売上を2倍にしたいならば、どうしたって、これら3つの活動に費や
す時間も文字通り「倍増」せざるを得まい。
とすると、唯一、他人に任せてもよい「事務」だけは、シッカリと他人に任せ
切って、3つの活動に費やす時間を確保する必要がある。
結果、今まではゼロだった人件費がドッと発生することになる。
しかも、身内ならともかく、他人を事務員として雇用するなら、狭くても、自
宅とは別に事務所を構える必要も生じようというもの。
ということで、今までは月額15万円だった経費が、一気に月額50万円くら
いまで跳ね上がることになるはず。
とすると、「手取50万円」を達成するには、年間売上1500万円が必要と
いう試算になる。
この場合、事業所得=900万円、社会保険+税金=300万円だ。
つまり、手元に残るお金を「2倍」にしようと思えば、売上を「2.5倍」に
しないとダメだということなんだねえ。
会社員のうちは、なかなか、この感覚が分かりづらいのだ。
次に、タイム・パフォーマンスの話。
先日の同期会にて、あるクラスメートいわく、「中小企業診断士って、スゴイ
らしいね。同僚にも一人いるんだけど、1回のセミナー講師で10万円貰える
なんて話を聞いて、スゲー!って感心した。」と。
確かに、1回で10万円貰えるなら、その人のセミナー講師としての実力は相
当な高ランクだし、会社員で10万円の臨時収入というのはスゴイ!と感じる
に違いない。
だが、事務所経営の立場から言えば、セミナーというのは、あくまでも「種蒔
き」(=投資)なのであって、決して「稼ぎ」ではない。
1回で10万円貰えるセミナーともなると、相当に充実した内容だ。
とすれば、その準備に費やす時間と当日の拘束時間を合計すると、一体、どれ
ほどの時間を投下したことになるのであろうか?
仮に、40時間を投下したならば、時給は2500円だし、
急ピッチで20時間の投下で済んだならば、時給は5000円だ。
まあ、それでも、会社員として貰える給料以外の「副業」としては、上出来な
のかも知れない。
でも、これが「本業」となると、完全にアウトだ。
士業の場合、「稼ぎ」の時給=「最低1万円」と言われる。
弁護士の法律相談が、30分=5000円とされるのも、そういうこと。
年間にどれだけ働けるかは、人それぞれだが、
健康的に働こうと思えば、年間2000時間がMAXだろう。
そのうち、「種蒔き」や「自分磨き」にも相当な時間を割く必要があろう
から、「稼ぎ」に充当できる時間は、せいぜい年間1500時間という計
算になるはず。
そうなると、「手取50万円」を目指して、「売上1500万円」を確保しよ
うと思えば、まさに「時給1万円」の「稼ぎ」を実践すべし!ということ。
従って、たとえ1回で10万円貰えるセミナー講師であっても、それに20時
間を投下しないといけないならば、それは「稼ぎ」としてはアウトなのだ。
つまり、士業たるもの、時給1万円に満たない仕事は、「稼ぎ」としては「受
任してはいけない」というのが結論だ。
勿論、何らかの「自分磨き」として、あるいは、「種蒔き」として受任する
のはOKだが。
ちなみに、人間は、経験を積むことで「成長」する。
経済学・経営学において、「経験曲線効果」なる概念がある。
これは、経験と効率との間の関係を示す経験則のことで、「個人や組織が特定
の課題について経験を蓄積するにつれて、より効率的にその課題をこなせるよ
うになること」を示すものだ。
即ち、人間は、いつまでも「時給1万円」ではない。
経験を積むことで、課題をクリアーするのに要する時間は、ドンドン短縮され
ていく。
時給1万円が、2万円、3万円と増えていくことで、こなせる年間仕事量は、
比例的にドンドン増えていく。
とすれば、マーケティング「さえ」成功すれば、売上もドンドン増えていくと
いうこと。
まあ、このマーケティングが最も難しいんだけどねえ……。
私も、20年近く弁護士をやっているので、いつまでも時給1万円のままでは
ダメということなんだよね。
実際、時給1万円なら、当事務所は、アッという間に潰れてしまうっす。
何はともあれ、まずは、時給1万円をキッチリこなしていくタイム・パフォー
マンスの感覚が大切ということだ。
独立するということは、端的に言えば、「安定」よりも「自由」を選んだとい
うこと。
だが、その「自由」を謳歌するためには、最低限の「安定」が必要不可欠とい
うジレンマにどうしても陥ってしまう。
自由という言葉の中には、当然に「経済的自由」も含まれるからね。
せっかく、自由のために独立したならば、やはり、
「手取50万円」=「売上1500万円」=「時給1万円」
というラインは、ぜひとも目指したいよね!!