197)宅建の「士格」化
- 2015年10月24日
- 弁護士・資格
横浜の「傾きマンション」。
最近のマスコミは、この話題で持ちきりだ。
実は、私も、横浜近辺に良い中古マンションがあれば、買ってもいいかな?な
んて思っていたので、今回の「データ偽装」は、あまりにショッキングだ。
今回の偽装工作の張本人が、2004年1月以降に杭打ち作業に関与した物件
は、全国で41件、うち、東海地方に34件が集中しているとのこと。
何と、三重県でも5件が該当するそうだ。
私の義父母が住む三重県内のマンションは、2001年新築。
う~む、今回の調査対象外なんだね。
まあ、大丈夫だろうとは思いつつも、何だかモヤモヤする感じ…。
言うまでもなく、不動産購入というのは、庶民にとっては、一生に一度の大き
な買物であり、人生設計を大きく左右する一大イベントである。
問題の「傾きマンション」の住民達の不安は計り知れない。
ところで、不動産というのは、この世に同じ物件が2つとない非常に「個性
的」な代物である。
しかも、人生設計を左右するほど高額なもの。
従って、不動産購入に際しては、ありとあらゆる「重要事項」に関する詳細な
情報提供が不可欠である。
もちろん、今回のごとく、意図的にデータを偽装されてしまうと、どれだけ丁
寧に情報提供されても、もはや「お手上げ」だけどね。
それはともかく、この肝心要の「重要事項」をキチンと説明するという重大な
職責を担うのが、「宅地建物取引士」という資格者である。
あれっ?と思った方も多かろうが、以前は、「宅地建物取引主任者」という名
称であったが、今年(2015年)4月から、この名称に変更され、「士業」
の仲間入りをしたというワケ。
とは言え、資格の中味がガラリと変わったものではなく、要は、それほど重大
な職責を担っているという「自覚を促す」ための改称であるらしい。
で、実は、今月18日に宅建試験を受験してきた。
まあ、宅建が「士格」化されたからという理由ではないのだが、不動産業を営
む社長から、将来的に経営のお手伝いを打診された経緯もあり、せめて宅建く
らいは取っておこうかと思った次第。
勿論、バタバタの仕事の合間を縫っての、休日だけを利用した勉強。
正確に計算したワケではないが、正味、まる1週間の勉強という感じか。
本読み3日、過去問3日、復習1日、みたいな…。
それでも、学習範囲の半分近くは「民法・借地借家法」のため、弁護士にとっ
ては、勉強不要(のはず)だったのは幸いで、何とか、自己採点では合格でき
たようだ。
士業は、いわゆる「8士業」と呼ばれるものの他、各分野で重要な職責を担う
職業ばかりだ。
ちなみに、「8士業」というのは、戸籍法等によって、戸籍や住民票等を「職
務上請求」という方法で取寄せることができる以下の士業。
(8士業)
・弁護士
・弁理士
・税理士
・司法書士
・土地家屋調査士
・社会保険労務士
・行政書士
・海事代理士
弁護士の場合、土地家屋調査士の仕事以外は、全て行うことが可能。
従って、弁護士としての活動の幅をドンドン広げようとする場合、他分野の資
格取得を目指すという戦略が「王道」となろう。
例えば、以下のような分野が考えられる。
(経営・マネー系)
・公認会計士
・中小企業診断士
・ファイナンシャル・プランニング技能士
(不動産・建築系)
・不動産鑑定士
・建築士
・マンション管理士
・宅地建物取引士
(その他)
・臨床心理士
・社会福祉士
・情報処理技術者
・通訳案内士
私の場合は、「経営に強い弁護士」を目指すこととしたが、これからは、「不
動産に強い弁護士」というのも大いに「アリ」だよね。
例えば、今回の「傾きマンション」も、「建替え前提」での協議が始まるとさ
れているものの、法的には容易なことではない。
今のところ、「傾き」が確認されているのは、4棟あるうちの1棟だけだ。
となると、4棟あるうちの1棟だけを建て替えるのか、それとも、4棟全てを
建て替えるのか、まずは、そこが問題となる。
区分所有法という法律によれば、「建替え決議」には、「区分所有者及びその
議決権の各5分の4以上の多数の賛成」が必要である。
今回は、全部で700世帯ということだから、4棟全てを建て替えるには、
何と560世帯の賛成が必要という話。
これだけでも、ハードルは非常に高い。
しかも、敷地内の複数の棟を全て建て替える場合には、「全体で5分の4以上
の賛成」という要件の他に、
敷地内の「各棟において、それぞれ3分の2以上の賛成」
という要件が加わる。
つまり、既に傾いている棟の住民が全員賛成しようとも、他の3棟のうち、3
分の1を超える反対者がいる棟が1棟でもあれば、全体の建替え決議は成立し
ないということ。
まあ、4棟全てを建て替えるのは、ほぼ無理だろう。
傾きが現実化していない棟では、相当の反対者がいるだろうからね。
じゃあ、既に傾いている1棟だけを建て替えるならどうか?
それなら、1棟の中だけで「5分の4の賛成」があればいいんじゃない?
と思ってしまうが、実は、そうでもないのだ。
マンションを所有するということは、建物の所有権を有するということだけで
はない。
マンションの敷地に対する権利(敷地権)も有しているのだ。
通常、敷地権は、全員の「共有」とされている。
従って、建替えをしない他の棟の共有者の権利も法的には無視できない。
ということで、区分所有法では、建て替える棟の中での「5分の4の賛成」と
いう要件の他に、
全共有者の議決権の「4分の3以上の賛成」
という要件が加えられている。
やはり、ハードルは非常に高いのだ。
こうなると、あらゆる交渉術と法的知識に長けた経験豊富な専門家が介在しな
いとダメだろうね。
マンションは、近時、ドンドン増えており、同時に、老朽化も進行している。
マンション問題は、今後、弁護士が活躍できるフィールドとなるかも知れな
いねえ。
ということで、若手弁護士のみなさん、不動産問題を真剣に探求してみては如
何であろうか。