沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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212)ギャンブルの必然性

先月下旬、読売巨人軍の「野球賭博」問題で、ついに逮捕者が出た。
先月上旬には、「違法カジノ」問題で、バドミントン界に激震が走ったばかり。
ギャンブルというのは、それほどまでに魅力的なんだろう。

言うまでもなく、賭博は、日本では違法だ。
刑法185条では、
「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。」
と規定され、自らプレーヤーとして参加するのも犯罪だ。

ついでに言えば、刑法187条では、
「富くじを授受した者は、20万円以下の罰金又は科料に処する。」
という規定もあり、宝くじの購入すら犯罪とされる。

でも、日本では、競馬もパチンコもOKだし、年末ジャンボもあるよな?
という素朴な疑問が生まれてこよう。

そもそも、合法と違法とを分けている基準は?
と、どれだけ真剣に考えても、理論的な答えは出てこまい。
まあ、これらのギャンブルが合法とされている理由は、
「お上の勝手な都合」
としか言いようがないのが実情だ。

各ギャンブルの監督官庁を見渡しても、見事なまでの「縦割り」。
要するに、「省益闘争」の結果なんだね。

競馬:農林水産省
競艇:国土交通省
競輪・オートレース:経済産業省
スポーツ振興くじ:文部科学省
宝くじ:総務省
パチンコ:警察庁

公営競技や宝くじは、国や自治体が胴元なんで、財政的なメリットは計り知れない。
ギャンブルというのは、胴元が「必ず」儲かるシステムだからね。
胴元の取り分は「寺銭」と言われ、これを除外してからオッズが決められる。
胴元は、どういう結果が出ようが、寺銭だけは確実にゲットできるワケ。

各ギャンブルの寺銭率は、次のとおり。
・公営競技=25%!
・スポーツ振興くじ=50%!!
・宝くじ=55%!!!

つまり、数学的には、「1000円で450円の金券を購入している」という超不合理な経済活動が宝くじの購入なのである。
まあ、これだけ「ボロ儲け」なんだから、各省庁が「我こそは!」と思うのも無理はない。

公営ギャンブルは、わざわざ特別法を作って、ムリヤリ合法化している。

一方、パチンコは、完全に民間事業である。
従って、特別法も存在しないので、素直に考えれば、完全に違法なはず。
それなのに、これが合法とされる理由は、
「三店方式」
という「屁理屈」がまかり通っているから。

三店方式というのは、パチンコに関わる業者を、
「パチンコ店」
「景品交換所」
「景品問屋」
の3つの店に形式的に分離することで、パチンコ店と客とが直接的な金銭授受をしないシステムのことで、簡単な流れは次のとおり。

1)客はパチンコ店で遊技球(=「出玉」)を購入する。
2)客がパチンコで出玉を増やした場合、パチンコ店は出玉を景品と交換する。
3)客が景品を景品交換所に持参すると、景品交換所は景品を現金で買い取る。
4)景品交換所は景品問屋に景品を売り、景品問屋はパチンコ店に卸す。

これが賭博でないというのは、誰がどう考えても「屁理屈」だ。
パチンコ店は、客に景品を提供しているだけなので、ゲームセンターと何ら変わらず、
その客が景品をどうしようが「客の勝手」なんで、「知ったこっちゃない」というワケ。

監督官庁である警察庁が本気になれば、全国のパチンコ店は一斉壊滅である。
もちろん、そうならないのは、警察庁の「権益」に関わるから。
パチンコ業界からの「政治献金」は、とんでもない金額であると言われているし、
パチンコ業界自体、警察官僚の有力な「天下り先」だとも言われている。
そして、パチンコの寺銭率は、15%と言われている。
疑うべくもなく「儲かる商売」なので、多少の過少申告でも税収は半端なかろう。

まあ、世の中、そんなもんである。
実際、サッカーくじは合法で、野球賭博は違法って、何じゃそりゃ?だよね。

昔から言われるように、
「飲む」(飲酒)
「打つ」(博打)
「買う」(買春)
を完全に禁止して、庶民から取り上げてしまうのは極めて難しいのだ。
いずれも、メチャメチャ高い依存性があるからね。

多くの国では、賭博は合法である。
ラスベガスのカジノやイギリスのブックメーカーは世界的にも有名だ。

国が、「飲む」「打つ」「買う」を禁止しても、必ず、闇市場が出現する。
闇市場の出現は、国家による実態の把握が困難となり、犯罪の温床となる。
そうなると、かえって社会に害悪を与える結果となる。
ならば、いっそのこと、合法化して国家で監督した方がマシという発想だ。

今回の野球賭博にしろ、違法カジノにしろ、違法だからこそ「闇社会」と繋がってしまうという側面があることは事実。
だからこその今回の「逮捕」だとも言える。

「飲む」「打つ」「買う」を犯罪行為と規定した場合、
それらは「被害者なき犯罪」と呼ばれる。
当事者同士は、「ウィン・ウィン」の関係で、誰にも何の被害も無いからね。

つまり、これらを犯罪とするかどうかは、単なる「政策」に過ぎないのだ。

賭博も、そろそろ合法化した上で、国家で実態を把握しながら徹底的に管理する、という手法に切り替えてもよいのかも知れない。
日本には、公営ギャンブルもパチンコもあり、それらが日本国民の生活に深く浸透してしまっている以上、他の賭博行為だけを一律禁止しておく合理的理由は全く見出せないからね。

そう言えば、文部科学大臣が、「スポーツ振興くじ」の新たな対象にプロ野球を加える構想について、「今回のような問題があると当然対象にはもうならないでしょうし、これは本当に大ダメージですね」と、導入を断念する考えを示したそうだが、とっても「???」な話だ。

野球くじを導入すれば、野球賭博を「闇」で行う動機そのものが無くなるのでは?
むしろ、野球くじの導入を断念するということは、野球賭博を、引き続き「闇社会」で横行させることを公的に容認してしまっているような話になりはしまいか?

とまあ、それはそれとして、ちょいと話題を変えてみよう。
日本では、公営競技やパチンコ、宝くじは、国民の生活に深く根ざしている。
そして、公営競技やパチンコで、身を滅ぼしてしまう人がゴマンといる。
ところが、宝くじで身を滅ぼしたという話は、ほぼ聞いたことがない。

そう、この違いを理解することは、とっても大切なのだ。

ギャンブルは、回数を重ねれば重ねるほど、「寺銭率」に限りなく近い確率で、「必然的」に負けるゲームである。
逆の言い方をすれば、回数を重ねない限り、勝ち・負けの確率は大きく変動する。
つまり、一部の人は、偶然に大儲けすることも十分あるワケだ。

仮に、100万回トライすれば、ピッタリ「寺銭率」で必ず負けるとしてみる。
宝くじを100万枚も買おうとすれば、1枚300円なら3億円が必要だ。
宝くじの寺銭率は55%であるから、3億円を投じた場合のみ、
1億3500万円の勝ちで、1億6500万円の負けという結果になる。
一般的には、1億6500万円も負ければ、身を滅ぼすには十分すぎる。
でも、そもそも、宝くじに3億円を投じることができた時点で、その人は十分に金持ちだ。
宝くじは、まず「当たらない」ので、宝くじの購入資金は、常に「自己資金」となる。
つまり、100万回のトライをしようと思えば、自ずと、多額の「自己資金」が必要なのであり、一般庶民が、宝くじで身を滅ぼすことは稀なのである。
だから、ほとんどの人が、一生に一度も高額当選をしない一方で、
ごくごく僅かな一部の人だけが、高額当選の恩恵を受けるという「不均衡」が生じる。

ところが、パチンコは違う。
何が違うかと言えば、出玉を繰り返し「すぐに再投入」できる点だ。
例えば、1玉4円のパチンコ玉を1万発借りれば、4万円である。
1万発を借りた場合、出玉をすぐに再投入していくので、トライ回数は1万回どころではなく、アッという間に10万回に達してしまう。
つまり、100万回のトライをするのに多額の自己資金は全く不要なのだ。
結果、パチンコに嵌った人達は、100万回のトライを何度も行い、
確実に「寺銭率」の「負け」が発生するゲームをやり続けていることになる。

パチンコの寺銭率は15%に過ぎないが、85%の確率でゲットした出玉も、大半はすぐに再投入されてしまい、それも15%の確率で確実に負けていく。
かくして、パチンコに投入した金額は「キレイに失くなる」運命にある。
だからこそ、誰でもパチンコで身を滅ぼす危険性は有しているのだ。

私自身は、ギャンブルは全くやらない。
だが、大学生の頃、一度だけ知人にパチンコに連れて行ってもらったことがある。
その時は、なんと、200円の投入で3000円をゲットした。
当時は、大学生で金も無かったのが幸いし、さらなる欲を出すことがなかった。
いわゆる「ビギナーズ・ラック」というヤツなんだろうけど、こういう「プチ成功体験」はホントに怖いよねえ。
よくぞ、ギャンブルに嵌らなかったと当時の自分を褒めたいものだ(笑)。

ギャンブルというのは、「偶然を楽しむ」ものであり、その限りにおいては、日常生活にスパイスを与えてくれる立派な趣味である。
ところが、ギャンブルにどっぷりと浸かり、トライ回数を重ねてしまうほど、
「偶然を楽しむ」はずの趣味が、一転して、
「必然の負け」が決定した懲罰へと豹変してしまうのだ。

う~む、何とも皮肉な話なんだよねえ。