沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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231)バイトは自由!?

先日、某ワイドショー番組を見ていたら、ネット上で、
以下のような「張り紙」が話題となっている、と取り上げていた。
飲食店店長からバイト店員向けの通達文書ということらしい。

(引用はじめ)
今回皆様の休み希望は全て通しておりますが、その結果年始が営業出来ないという事態になりました。これは飲食店として有り得ない事です。大型連休は基本的にサービス業では書き入れ時になります。書き入れ時に店を閉めるという事はどういう事かわかりますよね??会社へ大きな損害を与えているという事です。
なので、今月より休み希望が多いスタッフ=会社への貢献度が低いと見なし、シフトを削らせてもらっております。尚、今後の大型連休は全て休み希望は通せません。なぜなら、店を営業する事が最優先だからです。基本的には大型連休は学校もないし、休むのはみなさん全て私的な理由ですよね??なので、土日祝もそうですし、入社する際に決めている事、学生であれば学業以外の休み希望が多いスタッフから順位今後はシフトを削りますので、宜しくお願い致します。
(引用おわり)

この内容について、街の声(インタビュー)は、
「バイトには責任がないんだし」
「バイトは自由なんだから」
ということで、圧倒的に、店長を非難する声だらけだった。

ネット上でも、
「これ、労働基準法違反だろ?」
というように、店長を非難する書き込みが大半だったようだ。

まあ、確かに、店長のマネジメント能力は、賞賛には値しないだろう。
だが、ホントに、これは店長だけが非難されるべきものなのか?

そもそも、国民の多くが「バイトは自由」と思っているなら大問題だ。

バイトだろうが、正社員だろうが、
会社と「労働契約」を結んでいることには、何ら変わりがない。

とすれば、労働者としては、会社に対し、労働契約に従って、
誠実に「労働力を提供する義務」がある。
そして、労働者は、会社の「指揮命令に服する」ことにもなる。
この指揮命令関係というのは、労働契約に特有の本質的要素である。

勿論、就業時間というのは、労働契約の重要な要素であり、
これは、当然に、労働契約で定められていなければおかしい。

シフト制ならば、
「10時~23時のうち8時間以内(シフト表による)」
「毎週金曜日~月曜日勤務」
などと定められる感じになるだろうか。

いずれにせよ、店長は、「入社する際に決めている事」と明言しており、
労働契約では、一定の就業時間が定められていたのだろう。
要は、バイト店員たちが契約に従った出勤を拒否したという可能性が高い。

そうだとすると、バイト店員たちによる労働契約違反という可能性もあり、
法的に非難されるべきは店長ではない、とも思えてくるのだ。

バイトという単語からは、どうしても、
「学生の短期労働(=腰掛け)」というニュアンスが醸し出される。

そこから、「バイトは自由」という考えも生じるのだろう。

だが、労働契約というのは、大きく分かれば、
(1)有期契約なのか、無期契約なのか
(2)フルタイム労働なのか、パートタイム労働なのか、
という区分けしかない。

だから、巷での労働者の呼称は、
ざっくり整理すれば、次のような感じだ。

「正社員」=無期かつフルタイム労働者を指すことが多い。
「契約社員」=有期の労働者を指す。フル・パート両方あり。
「パート社員」=パートタイム労働者を指す。無期・有期両方あり。
「アルバイト」=有期かつパートタイム労働者を指すことが多い。

つまり、バイトであっても、契約で定められた「パートタイム」については、
誠実に就業しないとダメなワケで、バイトだから自由に休めるなんてことはない。
要するに、「バイトは自由」なんて考えは、法的にはあり得ない話なのだ。

じゃあ、今回のケースは、全面的にバイト店員たちが悪いのか?
というと、話はそう単純でもない。

この店長も、バイト店員たちの重要な法的権利を知らないようだ。
そう、「有給休暇」を取得する権利だ。

バイトの場合、そもそも、フルタイム労働ではないはずで、
当然に休みの頻度が多くなるので、労使ともに、有給休暇の発想がない。

例えば、週3日働くバイトの場合、
6ヶ月勤務を継続すれば、「5日間」の有給休暇が取得できる。

今回のケースの場合も、当然に該当するバイト店員はいたはずだ。
このバイト店員が、年末年始に有給休暇を取得する権利を行使したら、
会社側は、原則として、これを拒否することが出来ず、
賃金を支払った上で、そのバイト店員に休暇を与えねばならなかったのだ。

マネジメントをする上で、最低限の法的知識は必要だということだね。

だが、この話、もうちょっと続きがある。
確かに、有給休暇の取得は労働者の法的権利なのだが、
会社が、それを拒否できる「唯一の例外」がある。

それが「時季変更権」というヤツだ。
労働者が有給休暇を請求した「時季」が、会社の営業に支障をきたし、
「事業の正常な運営を妨げる場合」には、
会社は、「他の時季」に有給休暇を取ってくれと言えるのだ。

今回のケース、繁忙期の年始に店を閉めざるを得なかったのだから、
「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するだろう。

ということは、結局のところ、
年始に、運悪くシフトが入ってしまったバイト店員たちは、
出勤せざるを得なかった、というのが法的結論となろうか。

まあ、そうは言っても、
これは、法的議論云々の前に、会社と労働者との信頼関係構築という、
最も基本的なマネジメントの問題なんだよね。

大型連休なら、みんなが「休みたい」ワケで、
そんな日にこそ出勤してもらいたいということなら、
バイト店員たちを「その気」にさせる創意工夫が必要だったのだろう。

クレーム処理でも、人事・労務でも、何でもそうだが、
とにかく、人は「感情の動物」だということを、
経営者は、重々、肝に銘じておかないとダメだね。

そして、今の時代、今回のように、
すぐに、ネット上で「吊るし上げに遭う」ということもね。