離婚に関する基礎知識
I 離婚の可否という問題
1 協議離婚
民法763条によれば、夫婦は、その協議によって自由に離婚することができます。
但し、協議離婚が成立するためには、夫婦の「合意」が必要ですから、どちらか一方の離婚意思が欠けていた場合には、離婚は無効となります。
実務上、よく問題となるのは、夫婦の一方が勝手に離婚届を提出したり、強迫などにより離婚届への署名・押印を無理強いしたりするケースです。
もちろん、このような場合は離婚を無効にすることはできますが、一旦、離婚届が受理されてしまうと、裁判所に対して離婚無効を主張していくことになりますので、必ず、弁護士に御相談されることをお勧めします。
なお、離婚届が提出される前であれば、離婚届の「不受理申出書」というものを提出することによって、無効な離婚届の受理自体を阻止する方法もございますので、知っておかれるとよいでしょう。
2 調停離婚・裁判離婚
夫婦が離婚に合意しない場合、もしくは、離婚自体は合意しても、子の親権を双方が取り合ったり、離婚に伴うお金の問題で揉めたりすると、協議離婚という方法では離婚できません。
その場合、我が国の法制度では、必ず、家庭裁判所に対して「夫婦関係調整調停」というものを申し立てることになっています。
つまり、いきなり「裁判」を提起することはできない仕組みになっているのです。
調停というのは、調停委員という中立の第三者を介して、夫婦で合意できる点を探っていく手続であり、調停で夫婦が合意に至れば、離婚成立となります。
調停は、あくまでも「合意」による解決ですから、夫婦が合意できなければ調停は不成立で終了します。そうなると、夫婦の一方がどうしても離婚を望む場合、裁判によって白黒を付けることになります。
裁判は、夫婦の一方の意思に反して離婚を強行するわけですから、それなりの「理由」がないと離婚はできません。
民法770条1項によれば、次の5つの場合に離婚ができるとされています。
- 1. 相手方に不貞行為があった場合
- 2. 相手方から悪意で遺棄された場合
- 3. 相手方の生死が3年以上明らかでない場合
- 4. 相手方が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない場合
- 5. その他、婚姻を継続し難い重大な事由がある場合
実務上、よく問題となるのは[5]のケースです。
結局、何が「婚姻を継続し難い重大な事由」であるかは判例の積み重ねによってしか判別し得ない問題ですので、御自身で軽々に判断されるのではなく、必ず、弁護士に御相談されることをお勧めします。
なお、ここで御注意頂きたい点がございます。
それは、裁判で離婚を請求できるのは、「相手方が離婚原因を作った場合だけ」ということです。
つまり、御自身が一方的に離婚原因を作っておきながら、全く非難される要素のない相手方に対して離婚を求めることはできないということです。
この点も、具体的事情によっては、微妙な判断を要する場合がございますので、必ず、弁護士に御相談されることをお勧めします。
II 親権の問題
1 親権とは
親権とは、未成年者である子を監護、教育し、その財産を管理するため、その父母に与えられた身分上および財産上の権利・義務の総称です。
親権の内容としては、大きく分けて、監護教育権と財産管理権の2つがあります。
2 親権の帰属
離婚問題が浮上した際、夫婦の間で親権の取り合いになることも珍しくありません。
従前は、特に幼児の場合には「母性が優先する」との考え方が強かったように思いますが、近時は、そのような画一的判断は為されていません。
むしろ、実務上は、子の「現状をむやみに変えない」という考え方が強いように感じます。
つまり、夫婦が別居している状況下においては、現に養育されている子の環境をむやみに変えないという傾向になりますので、特別な事情がない限り、子の親権は、現に養育している親に帰属する可能性が高いと言えます。
もちろん、ケース・バイ・ケースではありますので、必ず、弁護士に御相談されることをお勧めします。
3 子の意思の尊重
子の親権は、現状維持の考え方に依拠すると述べましたが、10歳程度以上の年齢になってくると、子の意思も尊重されるようになります。
特に、子が15歳以上の場合は、人事訴訟法32条4項により、「親権者の指定についての裁判をするに当たっては、子が15歳以上であるときは、その子の陳述を聴かなければならない。」と規定され、子の意思を尊重すべきことが規定されています。
III 離婚や別居に伴うお金の問題
1 慰謝料
マスコミで、有名芸能人の離婚に際し、「慰謝料、なんと○○億円!!」などと報道されているのを目にされたことがあると思います。
ただ、この報道は2つの大きな誤解を生んでいます。
1つは、離婚すれば「必ず慰謝料が発生する」という誤解と、もう1つは、慰謝料が所得等の諸要素によって「異常に高額になる場合もある」という誤解です。
慰謝料というのは、「相手方の不法行為によって被った精神的苦痛」に対する対価のことです。
つまり、どんな場合であっても必ず慰謝料が発生するわけではありません。
慰謝料が発生するに足るだけの「重大な不法行為」がなければ、そもそも慰謝料は発生しないのです。
そして、有名芸能人と離婚しようが、平凡な会社員と離婚しようが、離婚を強いられる側が受ける「精神的苦痛」に大差はないはずです。
有名芸能人と離婚する場合は、裕福な生活を奪われるではないかとも思えますが、そこで奪われるのは、あくまでも「経済的利益」に過ぎず、愛情に溢れた円満な家庭を奪われた「精神的苦痛」は、人の所得等で差別されるはずはありません。
一般的な実務感覚で申し上げれば、慰謝料というのは、金300万円程度を上限として、様々な要素を勘案して、裁判所の裁量で決定されますので、具体的にどの程度の慰謝料になるかは予測困難です。
しかしながら、慰謝料が数千万円になるなどという事態は、到底あり得ないと断言できます。
有名芸能人と離婚した場合に「慰謝料○○億円!!」と報道されているのは、次に述べる「財産分与」の額を報道しているに過ぎません。
2 財産分与
夫婦の離婚が成立するまでは、夫婦には、互いに扶助義務があるとされます。民法752条では、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と規定しています。
従って、夫婦が別居に至ったとしても、離婚成立に至るまでは、経済的な援助として「生活費」を支払う義務が生じます。
この生活費のことを、法律用語では「婚姻費用分担金」と言います。
婚姻費用分担金には、夫婦間の扶助費だけでなく、子の養育費も当然に含まれますが、その具体額は、家庭ごとの個別事情によって変わります。
一般的には、裁判所が作成している「算定表」によって決定されることが多いですので、下記をご参照下さい。
婚姻費用の算定表
http://www.fukuoka-ricon-law.jp/img/koninhisantei.pdf
また、夫婦が離婚した場合には、夫婦は赤の他人になってしまいますが、子との親子関係は当然に存続します。
民法877条1項は、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と規定していますので、親権を失った親であっても、子の養育については経済的な援助をすべき義務が発生します。
この経済的負担が「養育費」であり、婚姻費用分担金と同様、裁判所が作成している「算定表」によって決定されることが多いですので、下記をご参照下さい。
養育費の算定表
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/30212001.pdf
なお、何故、このような算定表が作成されたのか、その「理屈」については、調停委員も含めて、十分に理解されていないことが多いですので、疑問に思った場合には、必ず、弁護士に御相談されることをお勧めします。
ちなみに、下記ブログにて、その点に触れていますので、ご参照下さい。
生活費・養育費算定の「理屈」
http://www.soleil-mlo.jp/blog/eia/1241/