沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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233)無保険車との事故

当事務所が扱う案件において、
最も高い比率を占めるのが、交通事故案件である。

当事務所の場合、加害者側も被害者側も多数扱っているが、
被害者側で対応する場合、
驚くほど多いのが、「相手方車両=無保険」というケースだ。

ネット情報ではあるが、
2014年の「任意保険」加入率は、73%。
JAや全労済等の「任意共済」を併せても、85%。

この数字がホントに正しいならば、
全体の15%は「無保険」という、実に信じ難い比率だ。

とは言え、我々が日頃感じている「無保険の多さ」からすると、
やはり、この数字は、正しいのかも知れない……。

自動車保険(共済)には、
強制保険(自賠責保険・共済)と任意保険(共済)とがある。

強制保険は、文字どおり「強制」であり、
加入せずに自動車を運転すれば、それだけで「犯罪」になる。
刑事罰は、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」だ。
もちろん、行政処分もあり、一発で「免許停止」となる。

ところが、任意保険は、文字どおり「任意」なので、
自賠責保険(共済)には加入しているけど、
「任意保険なし」というパターンが、やたら多いんだよね。

自賠責保険(共済)の対象は、人身事故のみ。
しかも、怪我だけであれば、保険金の上限枠は「120万円」。

そうすると、物損や120万円を越える人身傷害については、
すべて、加害者の自腹で賠償してもらわないとダメなのだ。

まあ、容易に想像できようが、賠償金の全額回収は実に困難。

そもそも、無保険車を運転する人は、
無保険でも平気という極めてモラルの低い人か、
経済的事情で任意保険に入らなかった人、なんだろうからね。

確かに、タクシー会社や運送会社のように、
車両を多数保有している企業では、
「常に支払う保険料 > 稀に支払う賠償金」
という図式が成り立ち得るので、経営判断として、
敢えて無保険にしているケースもあるにはあるが、
全体に占める比率としては、やはり少数派だ。

さて、相手方車両が無保険というケースの場合、
まずは、相談者に「現実」を理解してもらわねばならない。

言うまでも無いことだが、
「回収できない場合が多い」という厳しい現実だ。

そういう話をすると、中には、
「やってもみない内から、何故、そんなに弱腰なのか!」
と激怒する人もいる。

だが、弱腰どうのこうのという問題ではなく、
相談者自身に「自腹を覚悟する気」がないと、
結局は、相談者自身が「大損」をしてしまう可能性があるのだ。

例えば、物損の場合、私は、
「自腹で早期に修理して下さい。」
「修理したくないなら、自腹で買い替えて下さい。」
と最初に申し上げることが多い。

相談者の反応は、
「私は被害者です!1円たりとも自腹では支払いません!」
となる。
まあ、感情的には、当然だろう。

だが、物損の場合、
ほとんどのケースで、「代車」が必要となる。
そして、代車は「タダ」ではない。

もっとも、自身がレンタカー特約に入っていれば、
30日ほどはレンタカーを「タダ」で借りられる。

ポイントは、その間に、サッサと修理してしまうことなのだ。

相手方との交渉が長引いて、
修理もせずに、代車だけ借り続けたら、どうなるか。

相手方から、修理費+代車使用料を全額回収する必要が生じる。

結果、相手方から全く回収できなかった場合、
代車使用料は、極めて「ムダな損失」ということになるよね。

一方、レンタカー特約が利用できる期間内に修理完了すれば、
相手方から回収する必要があるのは、修理費だけで済む。

相手方が悪い!ということは、重々承知の上なのだが、
相手方の「自腹負担額」をできる限り圧縮していくのが、
結局は、相談者自身の「利益」に繋がるのだ。

さらに、買い替えるにしても、
車両の価値は、月単位でドンドン減少していくんだから、
レンタカー特約が利用できる期間内に買い替えた方が良いのだ。

要するに、損害賠償のうち、
「賠償」を多く勝ち取る努力をするのは、弁護士の務めなんだけど、
「損害」を少なく抑える努力をするのは、当事者の務めなんだよね。

このあたり、なかなか理解して頂けないんだけどねえ……。

人身の場合だって、同じこと。
こちらの損害額そのものを、
自賠責保険(共済)が使える120万円以内に抑えることが肝要。

例えば、相談者が怪我をしている場合、私は、
「治療は、御自身の健康保険を利用して下さい。」
と申し上げるようにしている。

相談者の反応は、
「私は被害者です!私の健康保険を使うなんて許せません!」
となる。
まあ、これも、気持ちは分かる。

だが、自由診療でも保険診療でも、治療内容は同じだ。
通常は、自由診療は、保険診療の「数倍」の値段設定。

従って、健康保険を使って保険診療にした方が、自分の為なのだ。
120万円の枠を有効に使えるからね。

もちろん、医療機関側は、嫌がる。
中には、「交通事故では、健康保険は使えません。」
などと、平気で「ウソ」を言う医療機関もあるやには聞く。

交通事故だろうが何だろうが、健康保険を使うのは患者の自由。
医療機関は、ただ単に「儲けが減る」から嫌がるだけなのである。

最近は、モンスター・ペアレント(親)に続き、
「モンスター・ペイシェント(患者)」も急増しているという。

我々の業界においても、
「モンスター・クライアント(依頼者)」は、増えつつある。

だが、弁護士の場合、学校や病院と違って、
クライアントになること自体を「お断り」することができる。
これは、事務所メンバーのメンタルヘルスを考えると、有難いことだ。

モンスター化する要因の一つは、
「誤った思い込みによる過剰な期待」
なのだろうと推察される。

従って、当事務所では、
まずは、この「思い込み」を是正する作業から始めるワケ。

まあ、当方の拙さもあり、その是正作業が上手くいかず、
「もっと、強気の弁護士に頼む!」
と怒って、事務所を出て行かれる方も、確かにいらっしゃる。

それは、それで、やむを得ないし、
そのような方の「思い込み」が全く是正されないままで、
当事務所のクライアントになって頂くワケにはいかない。

モンスター化する可能性を秘めているからね。

身勝手なようだが、弁護士と事務員のメンタルヘルスが、最優先。
これが崩れてしまうと、既存のクライアントへ御迷惑をお掛けするし、
弁護士と事務員、そして、その御家族の人生を台無しにしちゃうものね。