沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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271)脱税=憲法違反?

大阪城公園にある「たこ焼き屋」。

なんと、3年間で5億円以上の売上があり、
3億3000万円の所得を申告せず、
1億3000万円の脱税をしたという。

従来は、ほとんど儲けがなく、
確定申告をする発想すら無かったらしい。

ところが、数年前から急伸している
「インバウンド景気」。

2014年に免税制度が改正され、
東南アジア諸国向けのビザも大幅緩和、
さらには、円安相場も後押しをして、
訪日する外国人観光客がドッと激増した。

そして、彼らは、京都・奈良・大阪が大好き。
大阪城に行けば、大阪城をバックに、
大阪名物の「たこ焼き」を食べている姿を
自身のインスタグラムにアップしたい!

そのインスタを見た人は、
自分も、そこに行って、
同じように、インスタにアップしたくなる!

そう、インスタ映えとSNS拡散によって、
外国人観光客がドカッと押し寄せたのである。

しかも、付近には競合店が無いらしく、
まさに、外国人観光客の「入れ食い」状態。

まあ、そりゃ儲かるはずだわ、と納得だが、
ちょっと儲かりすぎでしょ(笑)。

当の経営者は、72歳のおばあちゃん。
どうも、ホントに悪気が無かったみたいで、
儲けたお金は、キッチリ「預金」してたらしい。
当然、バレますわな(笑)。

その後、税金はシッカリ納めたそうだ。

さて、このニュースを知った街の人々だが、
インタビューに答える中で、
「納税は国民の義務。憲法違反やがな。」
という声が多く聞かれた。

う~む、ちょっと違うんだよなあ。
でも、国民の一般的な理解がこんな感じだと、
安倍政権下での憲法改正論議は心配だなあ……、
なんて、思ってしまうんだよね。

憲法と法律は、その本質が全く違う。
法律は、確かに、国民に義務を課すものだが、
憲法というのは、国家に義務を課すもの。

だから、
「国民が憲法違反を犯す」
ということ自体が、あり得ないワケだ。

まあ、日本国憲法には、
国民の三大義務なんていうのが規定されているが、
国家を縛るはずの憲法の本来の姿からすると、
ちょっと「???」という規定。

実際、アメリカやカナダの憲法には、
国民の義務に関する規定は存在しない。

さすが、ちゃんと理念が分かっている証拠。

ちなみに、国民の三大義務は、次のとおり。

(教育を受けさせる義務)
第26条2項
すべて国民は、法律の定めるところにより、
その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。

(勤労の義務)
第27条
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

(納税の義務)
第30条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

これは要するに、
「カネ」と「ヒト」は国家に必要不可欠なので、
国民が国家に対して、
「きちんと法律で規定するなら、義務を負うよ。」
と宣言しているに過ぎない規定なのである。

結果、きちんと法律が制定されて、
教育を受けさせないとか、納税しない、
ということに対しては罰則も用意されている。

勤労の義務に至っては、
「法律の定めるところ」
という規定すらなく、単なる理念的な規定だ。

だからこそ、働かないことに対する罰則はない。

余談だが、日本国憲法の元々の政府案は、
「すべての国民は、勤労の権利を有する。」
だけであった。
そこに、当時の日本社会党が、
ソ連の影響を受けて、「義務」を追加したらしい。

そもそも、社会主義体制では、
労働自体のモチベーションが湧かないから、
どうしても「義務」とするしかないものね。

ただ、資本主義社会で、労働を義務とするのは、
やっぱり「違和感」しかないけどね。

まあ、ちょっと話が逸れたが、
憲法の本質が、国家に義務を課すもので、
「国家権力の規制」
に尽きる!ということ。
このことは、国民が肝に銘じるべきことだ。

ところが、この本質そのものを、
自民党は、完全に破壊しようとしている。

まずは、現憲法から見てみる。
現憲法は、ちゃんと憲法の本質を守っている。

(憲法尊重擁護義務)
第99条
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、
裁判官その他の公務員は、
この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。 

そう、憲法を尊重し擁護する義務を負うのは、
国家権力側の人達だけであって、
ここに「国民」は含まれていない!

ところが、である。
自民党の憲法改正草案は、次のとおり。

(憲法尊重擁護義務)
第102条1項
全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
第102条2項
国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、
この憲法を擁護する義務を負う。

これは、国家が国民に対して、
「憲法を尊重せよ!」
と圧力をかける口実を与えるようなものだ。

まさしく、憲法の本質とは「真逆」の構造。

そして、人権規定もヒドイことになっている。

(国民の責務)
第12条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、
国民の不断の努力により、保持されなければならない。
国民は、これを濫用してはならず、
自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、
常に公益及び公の秩序に反してはならない。

おいおい、と強烈に突っ込みたくなる。
そもそも、「人権」というのは、
人が「生まれながらに持っている権利」である。
つまり、人権を行使するのに、
何らの義務履行も前提条件とはなり得ない。

「人」でありさえすればOKなんだからね。

こんな無茶苦茶な規定が明文化されたら、
あらゆる場面で、
「権利を主張するなら義務を履行しろ!」
という不条理な言い分を許す根拠となりかねない。

人権というのは、その行使が、
他者の人権を侵害する場面でのみ制約され得るもの。
それ以外の場面で、
国家の都合による義務を課されるなんて、
絶対に許されないことだ。

安倍首相は、とにかく憲法改正をしたい人。
憲法改正を論じること自体は「悪」ではないが、
現在の自民党改正草案は、完全に「悪」なのである。
もはや、「憲法ですらない」という意味でね。

憲法改正論議が本格化する前に、是非とも、
国民が「憲法を学ぶ機会」を与えてほしいもんだね。