52)心の風邪
- 2010年11月10日
- 社会・雑学
現在、フジテレビ系列で毎週火曜日夜9時から放映中の「フリーター、家を買う。」というドラマ(主演:二宮和也)が面白い。
子供たちが「嵐」のファンで、嵐の「ニノ」が主演ということもあり、毎週欠かさず家族全員で見ているのだが、単なるアイドルドラマかと思いきや、現代社会の様々な問題を盛り込んだ硬派な「社会派ドラマ」であり、大人が見ても十分楽しめる内容となっている。
ストーリーをごく単純化すれば、こんな感じだ。
そこそこの大学を出た主人公が3ヶ月で会社を辞めてしまい「フリーター」になるのだが、なかなか再就職先が決まらない中、母親に深刻な「うつ病」が発症してしまう。
そして、その原因が、10年近くにも及ぶ近所の母親達からの「いじめ」であることが次第に分かってくる。
医師からは環境を変えることが最善の治療だと言われ、主人公は、再就職先が決まらないまま(フリーターのまま)、「俺が家を買って引っ越す!」と決意する、という話。
昨日の放映で4話までしか終了していないので、この先どういう展開になるのかは全く分からないが、「うつ病」については、日頃から大いに考えさせられるところがあり、私自身、とても興味深く視聴しているというわけだ。
最近でこそ、うつ病に対する国民的理解も深まりつつあり、うつ病は「心の風邪」だとまで言われるようになってきた。
風邪という表現には、うつ病は「誰でも罹る」可能性があり、治療さえすれば「必ず治る」という強いメッセージが込められており、うつ病は病気なんだということを正しく認識し、ちゃんと治療に行きましょう、ということなのだ。
確かに、うつ病だと称する人と接触する機会は年々増えている気がする。
私の身の回りでも、公私にわたって、うつ病の人は増え続けている。
離婚事件を多数受任していると、当事者のうちのどちらかが「うつ病」だというケースが非常に多いことに驚かされる。
離婚事件でトラブっているということ自体がうつ病を誘発することもあれば、うつ病をきっかけに夫婦関係がおかしくなってしまうケースもあるが、うつ病が、本当に「風邪」と同じくらい、珍しくも何ともない病気になってきたことは、日々実感しているところだ。
医学的には、うつ病は、脳内ホルモンのバランスが崩れて発症すると言われている。
人間の代表的な脳内ホルモンには、アドレナリン、ドーパミン、セロトニンの3種があり、およそ次のような働きがある。
アドレナリンは、「緊張」と「興奮」を誘発するホルモンで、これが不足すると「うつ病」になり、過剰になると「躁状態」に陥ってしまう。
ドーパミンは、「快感」を誘発するホルモンで、これが不足すると「パーキンソン病」になり、過剰になると「統合失調症」を引き起こす可能性がある。
セロトニンは、「鎮静」と「幸福感」を誘発するホルモンで、これが不足すると「うつ病」になり、過剰になると「躁状態」に陥ってしまう。
いずれにせよ、人間の体は本当にデリケートで、1つの脳内ホルモンが不足しても過剰でもダメで、全てのバランスがキッチリ取れていないと「心の健康」は維持されないということだ。
アドレナリンやセロトニンの不足が「うつ病」を発症させることが分かっているということは、この不足を改善すれば、症状は改善するということだ。
心療内科や精神科では、不足している脳内ホルモンの分泌を促進させる薬物治療を実施するのが普通で、ほとんどの場合、薬物治療によって症状は劇的に改善され、8割以上の人が2~3週間で快復に向かうそうだ。
だが、ここで注意しなければならないのは、この快復は、薬の効能として、脳内ホルモンの分泌が正常に促されているに過ぎない、ということだ。
つまり、少し良くなってきたからと言って、薬物治療を中断すれば、すぐに症状が復活してしまうのだ。
専門医は、うつ病においては、「治癒」(ちゆ)という言葉は使わず、「寛解」(かんかい)という言葉を使うそうだ。
これは、完全に治った状態を指すのではなく、病気の勢いが衰えて症状が出ていない状態を示す言葉である。
つまり、再発の危険性が残っていることを視野に入れた概念なのだ。
即ち、うつ病を完全に「克服した」と言うためには、脳内ホルモンの分泌異常をもたらした「原因」を完全に除去し切らないとダメということでもある。
原因は、その人の置かれている「環境」であったり、その人の「生活リズム」であったり、その人固有の「思考傾向」であったり、いろいろであろうが、この点にまでメスが入らないと、その人を真に救うことは出来ない。
こうなってくると、医師の力だけでうつ病を完全に克服するのは不可能だということが良く分かる。
どうしても、家族全員の理解と協力が不可欠なのだ。
冒頭で紹介した「フリーター、家を買う。」で登場する父親(うつ病の母親の夫)は、いわゆる仕事人間で、うつ病を病気として全く理解しない人物である。だからこそ、主人公である息子が、「親父は頼りにならないから、俺が何とかする!」と一念発起するのだが、一昔前までは、このような「無理解者」が主流であったはずだ。
今でこそ、うつ病に対しての理解は徐々に進展してきたが、まだまだ十分に理解できていない人も多いように感じる。
うつ病は、確かに「心の風邪」と言える側面があるのだが、風邪のように、元の状態に戻る(原状回復)ことを目標にしてはならないのだ。
元の「環境」、元の「生活リズム」、元の「思考傾向」に戻っただけなら、結局、うつ病が再発症してしまうだけのことであり、環境を「変える」、生活リズムを「変える」、思考傾向を「変える」ということが真に実現されない限り、うつ病と縁を切ることは到底出来ないのだ。
特に、その人の「思考傾向」がうつ病を誘発している場合、事態は深刻だ。
思考傾向(性格)を変えることは、相当に困難なことだからだ。
うつ病になりやすい性格のことを「メランコリー親和型」性格と言うが、これは、日本人には極めて多いタイプで、うつ病が日本人の国民病とまで言われる所以でもある。
メランコリーというのは、「気がふさぐこと。憂鬱な気分。うつ病。」などを意味する英語だ。
メランコリー親和型性格というのは、「まじめで几帳面、責任感が強く、他人に非常に気を遣い、頼まれたら嫌とはいえない。」といった性格のこと。
メランコリー親和型性格の人は、過剰なまでに厳しい内的規範を形成し、いつも様々な「○○ねばならない」という自分のルールに従ってしまい、そのルールが要求しているとおりの行為ができなくなると「うつ状態」になってしまう。
そして、不眠、早朝覚醒、食欲と性欲の減退、激しい気分の変動、不適切な罪悪感、自殺願望など、うつ病に特有の様々な症状が現れてくるのだそうだ。
どうだろう。
ピッタリ自分に当てはまると感じる人も多いだろうし、身の回りにも何人かは必ずいるはずだ。
あらゆる事件を担当していて思うことだが、紛争が深刻化すればするほど、マジメで善良な人間の方が先に潰れてしまうことが多い。「憎まれっ子、世にはばかる」というのは、なるほど真理である。
自分自身の内なる正義感や美学に固執することが、大切な人生や家族の崩壊を招いてしまうというのは、本当に泣くに泣けない話だ。
う~む。中国や北朝鮮のように、何でもかんでも他国のせいに出来る神経の図太さが日本人にもあればなあ……。