76)税金というコスト
- 2011年9月17日
- 経済・ビジネス
昨日は、「一般社団法人中小企業支援ナビ」という名古屋市所在の法人が主催する会議&懇親会があった。
本年4月より、月1回ペースで会議があり、私も、ほぼ毎回出席している。この法人は、その名のとおり、中小企業の経営を支援すべく設立された組織で、本年4月から活動を開始したばかりなのだが、既に9社と取引しており、今後ますます活動を隆盛化させる模様だ。
中小企業診断士や行政書士・社会保険労務士などが登録専門家という形で業務提携しており、私も、弁護士・中小企業診断士ということで、専門家登録をさせて頂いている。そして、早速、創業希望者を対象としたセミナー講師も仰せつかった。
もともとは、私が所属する中小企業診断協会愛知県支部の研究会の1つが発展した形なのだが、このような人脈を築かせて頂けたことは有難い限りだ。
ちなみに、URLは、下記のとおりである。
http://www.cs-navi.or.jp/
さて、中小企業支援ナビの会合に出席して、毎回強く感じるのは、登録専門家たちのバイタリティとモチベーションの高さである。
中小企業診断士という資格は、弁護士などと違い、取得しても独立開業する人はごく少数で、大半の人は、企業の内部にとどまって、企業内で知識を活用するというスタイルをとる。
こういう人達を「企業内診断士」と呼んだりするのだが、中小企業支援ナビに登録している方々は、ほとんどが「独立診断士」である。
つまり、目の前の仕事に没頭すれば足りるという企業人とは異なり、自ら採算の合う仕事を取ってきて、確実に結果(利益)を出し、継続して自らの生活を成り立たせなくてはならないという「必死さ」が、自営業者のバイタリティとモチベーションの高さに直結しているのだろうと思う。
言うまでもなく、独立開業するということは並大抵の易しいことではない。
サラリーパーソンの間は、仕事を取ってくることも、仕事を遂行するための資金繰りも、経営資源の活用・管理も、ぜ~んぶ組織の誰かがやってくれたので、自身は、目の前の仕事に没頭すれば足りた。
言ってみれば、優秀な「職人」でありさえすれば良かったのだ。
だが、独立開業するということは、自らが職人であり続けるのと同時に、組織のあらゆる部署の責任者がやってきた職務をたった1人で全うする必要があるということだ。
そして、独立開業して最初に躓くのが「お金の遣り繰り」である。
例えば、サラリーパーソンの場合、税金を「コスト」として意識することは、ほとんどないはずである。
給与明細や源泉徴収票を見ずに、自身の税金や社会保険料を正確に言える人すら圧倒的に少数であろう。
最初から、税金や社会保険料は「天引き」されているので、残った「手取収入」こそが、サラリーパーソンの家計の「出発点」であり、「さあ、これをどう使っていこうか」というのが家計の遣り繰りの全てのはずである。
ところが、自営業の場合、そうはいかない。
売上高から経費を引いて、残った金額が「事業所得」だが、言うまでもなく、これは「税込収入」である。
つまり、この金額を、国と自治体と自分とで「山分け」せねばならないのだ。
しかも、ず~っと後になって!
この「後からゴッソリ持って行かれる」というのが、非常にキツイのである。
翌年の確定申告の時期に、「ええ~!こんなに払うのかよ!もうお金残ってないし、どうやって払おう……。」と慌てる人も多いし、前年の所得を基準に住民税が課されるということを知らずに、たまたま儲かった年の翌年に顔が真っ青になってしまう人もいる。
本来は、事業所得には国と自治体の取り分が入っている以上、全部を使ってしまってはいけないのだが、そこにお金があれば、ついつい使ってしまいたくなるのが人情というものだ。
要するに、自営業の場合、経費という事業遂行上のコストの他に、税金という社会生活上のコストを強く意識して、確実に税金を払い続けていかねば、生活を維持していくことすら出来ないということだ。
よく芸能人やスポーツ選手が、大儲けした年にお金を全て使い切ってしまい、翌年に税金が払えなくなった、なんて話をよく聞くが、経費も税金も同じコストであるということを知らなかったが故の悲劇である。
企業会計で作成する財務諸表に「損益計算書」というものがある。
企業の1年間の経営成績を示すものであるが、この中に5つの「利益」が登場する。
売上高から売上原価を引いた「売上総利益」(本業の付加価値)、
さらに販売費や一般管理費を引いた「営業利益」(本業の収益力)、
さらに営業外損益を加減した「経常利益」(企業の収益力)、
さらに特別損益を加減した「税引前当期純利益」(結果的な税込利益)、
最後に税金を引いた「当期純利益」(配当可能利益)である。
企業としては、粉飾決算をして融資を引っ張ろうという魂胆でもない限り、税金なんてものはムリに払う必要はないので、税引前当期純利益がゼロでも全く構わない。
その意味で、企業にとって税金は必要コストではない。
もちろん、株主に配当したいとか、投資資金を留保したいという狙いもあり得るだろうが、企業が「存続」することだけを考えるなら、利益は残さなくてもよいという話だ。
だが、自営業者の場合は、当期純利益こそが「生活費」なのだから、税引前当期純利益が「税金+生活費」よりも多くないと、そもそも「生きていけない」ということを意味する。
だからこそ、税金の支払いは、生活を維持するための「必要コスト」ということになるのであり、この計算をミスると、家族が路頭に迷うという悲しい結末を迎える。
先ほど、私の14年間の事業所得の合計額と支払ってきた税金の合計額をざっと計算してみたところ、事業所得の実に「3分の1」が税金というコストに消えてしまっていた。本当にビックリするくらい大きなコストである。
まあ、税金を支払えていること=生活が成り立っていること、と解釈すれば、有難い限りなのではあるが。