沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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95)「公」こそ経営感覚を

 官民格差。
 最近よく聞く言葉だ。

 この国が、官僚に支配された「官治国家」であることは、もはや周知の事実。
 官僚の壁は、我々の想像以上に分厚くて強靭なようだ。

 民主党への政権交代によって、政治主導(脱官僚)による真の「法治国家」が実現するかにも思えたが、淡い期待を抱いた国民がバカに見えるくらい、無様なまでに「やっぱりか…」と落胆させられる結末ばかりである。

 先日も、年金の官民格差が明らかになった。
 人事院の調査によって、退職金と年金の合算額の「官民格差」が400万円にも達することが判明し、政府の有識者会議は、公務員の退職給付を400万円引き下げることを要求した。

 だが、批判の的になっていた「職域加算」は、形を変えて「温存」されることになりそうなのだ。またまた、「やっぱりか…」である。

 職域加算というのは、公務員が加入している共済年金における「上乗せ部分」のことで、勤続20年以上で報酬比例部分の20%(勤続20年未満なら10%)相当の年金「加算」がされる仕組み。
 そして、その上乗せ部分の掛け金の半分に「税金」が投入されているということで、直ちに「廃止すべき」だという議論が沸きあがっていたワケだ。

 要するに、年金制度については、国民年金という1階部分、厚生年金・共済年金という2階部分に加えて、公務員の場合には、職域加算という3階部分までがシッカリと制度設計されているということなのだ。

 豪華な3階建て官舎に住む公務員、十分に贅沢な2階建て社宅に住む会社員、そして、お粗末な平屋の自宅兼店舗に住む自営業者、年金制度は、まさに「現代版:士農工商」なのである。

 1階部分しか与えられない我々自営業者は、平屋を2階建てに増築しようと思えば、自前で国民年金基金に加入する必要がある。もちろん、退職金だってないので、老後設計は、すべて自腹でやりくりせねばならない。
 それなのに、公務員というだけで、税金で老後設計が着実に構築されるということに、多くの国民が不公平感を感じているというワケだ。

 職域加算の廃止には、当然ながら、公務員側の猛烈な反対がある。
 公務員側の言い分は、「大企業の大半は、自主的に企業年金制度(3階部分)を用意しているのだから、我々も民間並みにしてもらいたい。」ということだ。

 バカか!と言いたい。

 今の日本の状態を考えろ!ということだ。
 公務員の雇用主は国家である。
 日本国の経営状態がジリ貧なのに、なんで、好況期と同じような手厚い待遇をせにゃならんのだ。

 企業年金を実施し続けている企業は、あらゆる企業努力を実行して、創意工夫を続けながら、企業年金の掛け金を死ぬ気で捻出しているに違いない。
 それでも、いよいよ経営が立ち行かないと判断すれば、企業年金はスパッと廃止せざるを得ないのである。

 それに、そもそも中小企業にとっては「企業年金?なにそれ?」という感覚だろう。
 ジリ貧の日本国に雇用されている公務員の待遇を、なぜ、好調なトップクラスの大企業「並み」に合わせにゃいかんのか。

 まあ、公務員のバカげた「感覚」にも無理からぬものがある。
 公務員の提供する公共サービスと税金との間には、厳密な意味での対価関係は存在しないからだ。
 だからこそ、公務員の世界にドップリと浸ってしまうと、ついつい「顧客視点」と「コスト意識」というビジネスの基本中の基本を忘れ去ってしまうのだ。
 と言うより、そんなものを身につけないまま成長してしまうのだろう。

 ちょっとでも「コスト意識」があれば、今の日本の経営状態に思いをはせたとき、まずは、徹底的にコストカットを実行してから、自分たちの要求をしていこうという気持ちになるはずである。

 そして、ちょっとでも「顧客視点」があれば、民間の活力が向上し、税収がアップしていくために、行政として出来る事は何かという発想になるはずなのである。

 自身のサービス提供と顧客の支払との間に「対価関係」のない職業は、本当に要注意なのである。
 どうしても、ビジネスで最も大切な「顧客視点」と「コスト意識」を完全に忘れ去ってしまうからだ。

 会社が儲かれば、給与も増える。会社がジリ貧になれば、給与も減る。
 こういう現実に直面してみないと、普通の会社員であっても、なかなか、経営やビジネスについて真剣に考えることはないかも知れないが。

 私の父は、宗教法人の職員であった。
 今でも忘れない、小学生時代に同級生が言ったキツイ言葉がある。
 直接、私一人に対して言ったものではないが、私と同じ境遇の者たち全員に対して言い放った言葉だ。

 いわく「お前たちは、俺たちの金でメシ食ってんだからな!!」と。

 正直、ガツーンと頭を殴られたようなショックを受けた。
 何やと!!とも思ったが、まさに、そのとおりであったので、何の反論も出来なかった。
 でも、今思うと、私に「気付き」を与えてくれた、ありがたい言葉だった。

 公務員も全く同じなのだ。
 ある意味、電力会社だってそうだ。
 果たして、彼らが、税金や電気料金でメシを食わしてもらっているという感覚を持っているだろうか。

 市場原理に支配されていない、ありとあらゆる業種が、ビジネスの基本である「顧客視点」と「コスト意識」を完全に忘れ去ってしまう危険性がある。

 地方自治体レベルでは、徹底したコストカットを実現しながら、住民の経済活動を支援する施策をドンドン実施して、結果的に税収アップを実現しているところも出てきている。

 例えば、佐賀県の武雄市などが良い例だ。
 同市は、市のホームページをフェイスブックに丸ごと移転して、年間数百万円も運営コスト(デザイン代・サーバー代など)を削減し、図書館運営もレンタルビデオの「ツタヤ」に委託して、運営コストを年間1千万円もカットする計画なのだそうだ。しかも、図書を借りるごとに「Tカード」のポイントがゲットできるシステムにするらしい。
 さらには、市のホームページをネット通販の場として無償提供し、住民がドンドン儲ける仕組みを構築し、結果的に、税収アップを実現したという。 

 そう、増税なんていう安易な選択をする前に、どうすればコストがダウンし、どうすれば税収がアップするのか、という根本的な問いを突き詰めていく「経営感覚」が必要なのである。

 自治体レベルでドンドン良い例が出てくれば、やがて、国レベルでの大きな動きに発展するかも知れない。

 あ~、どこぞの優秀な経営コンサルタントが政府に入ってくれませんかね~。