114)ホントに増税すべきは
- 2013年2月9日
- 経済・ビジネス
与党による2013年の「税制改正大綱」が公表された。
消費税が、2014年4月に8%へ、2015年10月に10%へと引き上げられることに配慮して、住宅を中心とした減税措置が盛り込まれる一方、いわゆる「金持ち増税」を鮮明に打ち出している。
金持ち増税の柱は、所得税と相続税である。
所得税は、最高税率が、現行の40%から45%に引き上げられる。
そして、相続税は、非課税枠が、現行の「5000万円+1000万円×法定相続人数」から「3000万円+600万円×法定相続人数」に引き下げられ、最高税率が、現行の50%から55%に引き上げられる。
まあ、金持ちに対する増税という方向性自体は良かろう。
大多数の庶民には無縁な話だし、何も金持ちの全財産を没収しようという話でもないしね。よく言われる「所得の再分配」も大事な政策だ。
今回、所得税の税率が45%に引き上げられる対象となるのは、課税所得が4000万円以上の領域だから、無論、庶民には全く影響はない。
相続税だって、夫が死亡し、妻と子3人が法定相続人となった場合、現行法では9000万円までが非課税だったのが、5400万円超で課税しようというような話であり、やっぱり、相続税は庶民には関係のない話だ。
だが、金持ち課税で見過ごされている(いや、敢えて隠している)とんでもない実態がある。
それは、あまり語られない「超金持ち層の優遇」である。
言うまでもなく、日本の所得課税は「累進課税」であるが、所得に応じてどのように税を負担するかという点で税制を分類すると、累進課税・比例課税・逆進課税の3つに分類できる。
累進課税とは、所得が「多い者ほど」所得に対して「高い割合」の税を負担する税制のことである。所得税や相続税・贈与税などが典型である。
比例課税とは、所得の多寡によらず、所得に対して「一定率」の税を負担する税制である。住民税の所得割(一律10%)や所得税のうち分離課税が適用される土地・株式の譲渡所得などが典型である。
逆進課税とは、所得が「少ない者ほど」所得に対して「高い割合」の税を負担する税制である。住民税の均等割(一定額)や消費税などが典型である。
消費税が何故「逆進課税」と言われるかというと、低所得層ほど「所得に占める消費の割合」がどうしても高くなってしまうからだ。
大和総研金融調査部制度調査課作成のデータによれば、次のような実態が明らかとなっている。
年収170万円世帯 消費税負担率3.81%
年収315万円世帯 消費税負担率3.24%
年収440万円世帯 消費税負担率2.76%
年収617万円世帯 消費税負担率2.32%
年収1064万円世帯 消費税負担率1.88%
見事なまでの「逆進課税」である。
今回の税制改正では、「逆進性」が問題となっている消費税増税の影響を緩和する目的で、所得税や相続税の「累進性」を強化しよう!ということなのだが、いやいや、もっと「ひどい逆進性」があるぞ!ということを指摘したい。
所得税というのは、もちろん「累進課税」なのだが、前述のとおり、所得税のうち土地・株式の譲渡所得などは「分離課税」とされていて、一定率の課税しかされないため、どれほどの高額所得でも「比例課税」なのである。
次のデータを見て頂きたい。
このデータは、財政問題研究者の垣内亮氏が作成したものからの抜粋で、「所得」と所得に占める「税+社会保険料の負担率」を示したものである。
100万円 20.2%
500万円 22.9%
1000万円 26.6%
2000万円 31.5%
3000万円 33.4%
5000万円 35.8%
1億円 35.7%
10億円 28.2%
50億円 22.4%
100億円 20.2%
100億円超 18.9%
どうだろうか。
びっくりする実態だ。
所得5000万円までは、何とかキレイに「累進性」が実現されているものの、所得5000万円~所得1億円では「比例課税」のようになり、所得1億円を超えると、坂道から転げ落ちるように、どんどん「逆進性」が加速されているという実態が良く分かる。
そもそも、所得100万円の人よりも、所得100億円超の人の方が「税率が低い」なんて、どう考えても、ふざけた話だ。
所得を「勤労所得」と「不労所得」に分けるならば、給与所得や事業所得なんていうのは「勤労所得」であり、どれほど「労働の価値」を上げても一定の限界は必ず訪れる。
おそらく、その限界が所得5000万円~1億円あたりなんだろう。
所得税の増税というのは、要は、汗水たらして稼いでいる勤労所得者の負担を高めるというものだが、あまりに税負担が高くなれば、「働く意味がない!これ以上働くのはイヤだ!」ということになるだけ。
結局、誰のために働いているか分からなくなるもんね。
私も、弁護士になって確定申告をするようになり、当初は、どんどん高くなっていく税金に愕然としたものだ。
当然だが、弁護士1年目が最も税負担は軽かった。
これまで最も多く税金を納めた年は、弁護士1年目で納めた額の実に30倍近い額に及んだ…。
毎年毎年、「いかにして税金を納めるか」で頭を悩ませにゃいかん、というのが個人事業主のホントにツライところだ。
何しろ、「収入~事業経費~税金=生活費」という構図だから、税金を納めない限り、まともに生活できないものね。
ただ、逆に言えば、生活が成り立って、将来のための貯蓄も十分できる程度に稼げるようになれば、それ以上、自分自身を酷使してまで税金を納めようなんて思わないよなあ。
やはり、勤労所得者への増税というのは、絶対に「課税逃避」行動を招くはずだ。そもそも、自主申告だしね。
私の場合は、課税所得で4000万円なんていかないけど、ボーダーラインにいる人達は、所得を減らす行動に走るに違いなかろう。
一方、所得が1億円超という人達は、よほど特殊な人を除いて、ほとんどが土地や株式などの「譲渡益」で儲けた人達だ。
そして、このような利ザヤで儲けた金というのは、典型的な「不労所得」である。
そう、ホントに増税のターゲットにすべきなのは、言うまでもなく、このような「不労所得」なのである。
もともとが「あぶく銭」なのだから、重税を課しても、「それなら売るのをやめよう!」という結論にはならない。
売らなきゃ1円もポケットに入ってこないんだから、それでも、売った方が得に決まっているからだ。
現在、株式の譲渡益に課される税率は、優遇税制が採用されているため、何と、たったの10%(!)である。
つまり、100億円の儲けがあったら、90億円がごっそりとポケットに入るワケだ。
仮に、事業所得で1億円あっても、所得税40%・住民税10%・個人事業税5%が課されることになるから、計算は単純ではないが、ポケットに入るのは確実に半分以下となってしまう。
この差は如何にも理不尽だ。
そもそも、不労所得の方が、勤労所得よりも、税率が「圧倒的に」低いということ自体が大問題だ。
株式の譲渡益については、税率を10%から本来の20%に戻すべきだとの議論がなされてはいるが、それでも、たったの20%である。
100億円の儲けに対して、事業所得なみに50%程度の課税をしても、当の本人は大して困らないはず。
不労所得で50億円もポケットに入るんだからね。
一体全体、政治家は、誰に遠慮して、この「超金持ち層」への増税を実行しないんだろうか…。