163)スマイル・カーブ
- 2014年9月7日
- 経済・ビジネス
毎月第1金曜日に開催されるK会の勉強会。
K会というのは、当事務所の顧問先である同業者グループ。
毎回、所属メンバーが持ち回りで講師を務め、もう10年以上にも渡って、ありとあらゆるテーマで勉強を続けている。
で、先週の勉強会は、「これから5年の日本の産業と我が業界を考える。」といった感じのテーマであった。
とても勉強になる刺激的なテーマだったが、その中で、私からは「スマイル・カーブ」というお話をさせて頂いた。
スマイル・カーブとは、産業構造のなかで、上流のビジネスと、下流のビジネスは利益率が高くなる(=付加価値が高い)一方、中流は利益率が低くなる(=付加価値が低い)という現象を示した言葉だ。
横軸に上流・中流・下流という時間の流れをとり、縦軸に利益率(付加価値)の高低をとると、笑ったときの人間の口の形のように、両端がつり上がった形になることから、スマイル・カーブと呼ばれる。
上流・下流という表現は、商品やサービスの流れを川の流れに例えたもので、消費者に近づくほど「下流」ということになる。
商品を例にすれば、上流=企画・開発、中流=製造・流通、下流=マーケティング・アフターサービスといった感じだ。
経済が成熟すると、多くの商品やサービスが「飽和状態」に至る。
飽和市場では、標準的な商品やサービスは、常に「供給>需要」状態となるので、市場では消耗戦的な熾烈な価格競争が展開される。
結果、最もマニュアル化しやすい中流部分にコストカットの圧力が集中し、中流部分は付加価値を生み出しにくい構造と化してしまう。
例えば、アップル製品の裏を見ると、「Designed by Apple in California , Assembled in China.」(=設計はカリフォルニアのアップルで、組立ては中国で。)という言葉がシッカリ書かれている。
アップルは、自前の工場すら持っていない。
つまり、高付加価値となる上流部分(企画・開発)と下流部分(マーケティング・アフターサービス)をガッチリ押さえつつ、付加価値を生み出しにくい中流部分は中国に完全委託することで、魅力的な商品をリーズナブルな価格で市場に提供できているというワケ。
このスマイル・カーブ現象は、先進国の成熟市場における宿命的な現象であるが、上流部分や下流部分で高付加価値を提供できるだけの「競争力」がない企業は、その業界で生き残ることすらできないということを意味する。
アップルが大成功しているのは、その開発力(上流)とブランド力(下流)の賜物に他ならないのだ。
ところで、スマイル・カーブという経済的視点は、我々のような「士業」の世界にも十分応用可能である。
例えば、上流=計画立案、中流=業務遂行、下流=問題解決という時間軸を設定すれば、業務遂行という中流部分は、最もマニュアル化しやすい部分であり、低付加価値となる。
税務申告や労務管理の世界なら、日常の会計処理や給与計算などが典型で、記帳代行や給与計算代行などの仕事は、熾烈な低価格競争になっていることは御承知のとおり。
まあ、税理士であれば、経営・財務コンサル(上流)や税務署対策(下流)を強力な武器にしていくべきだし、社労士であれば、人事・労務コンサル(上流)や従業員対策(下流)を強力な武器にしていくべきであろう。
要は、マニュアル化できない「個々の専門家の力量によって結果に差異が生じ得る分野」に注力すべきだということ。
かなり前のことだが、東進ハイスクールの林修氏が、某テレビ番組で、「社会で生きていく上で必要なのは、【創造力】と【解決力】の2つだ。」と発言していたことを思い出した。
創造力=斬新なアイデアで新たな価値を市場に創造する力と捉えれば、それはまさに「上流を制する力」である。
また、解決力=日常のルーティン・ワークから外れた突発的な問題を解決する力と捉えれば、それは「下流を制する力」である。
いずれも、標準的なマニュアルでは対処できない「仕事人としての総合力」が必要となる。
どんな仕事であっても、高付加価値を提供できなければ、価格競争を前提とした「薄利多売」のビジネスに甘んじる他なくなる。
付加価値というのは、ざっくり言えば「粗利」のことだ。
付加価値が低いということは、粗利率が低いということ。
粗利率が低ければ、そこそこ儲けるために多額の売上を計上する必要が生じ、ちょっとでも販売量が落ち込めば、アッという間に赤字に転落してしまうという、非常に危うい収益構造となってしまうのだ。
中小企業にとって最も大切な収益性の指標は、ズバリ「労働生産性」である。
労働生産性というのは、「付加価値(=粗利)÷ 従業員数」のことで、要は、「従業員1人あたり、いくらの粗利を稼ぎ出しているのか?」という指標だ。
ちなみに、従業員は正社員を1人と数え、パートは0.5人と数える。
この指標は、年商の規模に関わらず、自社の収益性を的確に判断できる。
中小企業が「年商ウン億円」と自慢したところで意味がない。
大切なのは、シッカリとした労働生産性を維持できているかどうかという点に尽きる。
労働生産性は、中小企業なら、一般的には1000万円以上あれば良好だが、各社によって事情が異なるので、大雑把に言ってしまえば、「人件費の2倍」ほどあれば大丈夫。
企業の労働分配率(=人件費 ÷ 粗利)は50%が標準とされているからだ。
今のところ、当事務所の労働生産性は、ありがたいことに極めて良好だ。
だが、今後、弁護士の数がさらに増加し、ネット等で単純な法的知識やノウハウが容易に入手できるようになった今、低付加価値の法的サービスしか提供できない事務所は淘汰されてしまうだろう。
やはり、キーワードは、「価値創造力」と「問題解決力」ということだね。
要は、あらゆる場面の「最初」と「最後」にキッチリ関わっていける「総合サポート力」を身につけるということなんだよね。