沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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216)コスト感覚

先日、三重弁護士協同組合に対し、他県の弁護士から珍しい苦情が入った。
簡単に言えば、「謄写費用が想定外に高かったので、想定内の金額しか払わない。」という、
何とも「???」な言い分。

謄写というのは、裁判所や検察庁にある民事・刑事記録をコピーすること。
扱うモノが国民の権利・義務を左右する重要記録であるため、
その「閲覧・謄写」には裁判所・検察庁の許可が必要となる。

だが、裁判所や検察庁がしてくれるのは、あくまでも「許可」だけであり、
忙しい職員を動員して、親切にコピーまでしてくれるワケではない。
ならば、庁外に記録を持ち出して、コンビニでコピーをしていいかというと、
そんなのはダメに決まっている。

そこで、裁判所や検察庁にコピー機を設置して、コピーを代行するという、
司法界独特の「謄写事業」というビジネスが発生する。
勿論、重要な記録を取り扱うので、万が一にも、
改ざん・抜き取り・破損・順番の入れ替え等々のトラブルがあってはいけない。
従って、謄写事業を扱うのは、裁判所や検察庁が認めた公的団体に限られている。
で、三重県の場合、三重弁護士協同組合が謄写事業を担っているのだ。

確かに、一般の感覚からすれば、謄写費用はバカ高い。
三重県の場合、自分でコピーするなら1枚20円だが、
代行を依頼すれば、組合員なら1枚50円、非組合員なら1枚70円だ。

とは言え、決して三重弁護士協同組合が暴利を貪っているワケではない。
コピー機を各庁に配置し、職員を各庁に頻繁に派遣するのだから、コストは甚大だ。
この金額設定で、収支はトントンというのが実情なのである。

組合員というのは、要するに、三重県の弁護士のことなので、
県外の弁護士は、非組合員ということになる。

まあ、この弁護士の「高い!」という感覚も分からなくはないが、
別に、三重弁護士協同組合の料金設定が特殊なワケではない。
謄写枚数の多い大都市ほど割安な傾向はあろうが、
言ってみれば、全国的に、この程度の金額が「相場」なのである。

当組合の職員も、相手が弁護士なので、当然に相場感覚があるものと思い、
聞かれもしなかったので、特段の料金説明をしなかったようだ。
この弁護士は、「そんなに高いなら、自ら出向いた。」と愚痴ったそうだが。

でも、やはり、この弁護士の「コスト感覚」は、おかしい。
今回、苦情となっている金額は、わずか数万円である。

通常、実費相当額は、依頼者負担とする契約が一般的なので、
そもそも、依頼者との間で、そこまでコストを切り詰めないといけない契約を締結していたとするならば、
契約時の「コストの見通し」があまりに甘かったと言わざるを得まい。

また、特殊な事情があって、どうしてもコストを抑えないといけないのならば、
自ら、コストの調査を徹底すべきであったはずである。
当組合の職員に一言だけ尋ねれば、料金体系はすぐに分かるのだから。

それにしても、代行を依頼すると高いので、自ら出向くというのは、
いよいよ「コスト感覚」が無さ過ぎるのではないか。

この弁護士が三重県に出向くためには、新幹線や特急を乗り継いでくることになる。
確かに、支出する金額だけなら、代行を依頼するよりは出向く方が若干は安い。
だが、自営業者である弁護士にとって、最も大切なのは「時間」のはず。

この弁護士は、一体全体、自らの「時給」をいくらと把握して仕事をしているのだろうか。

年間2000万円稼ぐ必要のある弁護士の場合、
年間2000時間労働で、ピッタリ時給1万円である。

わざわざ三重県に出向いて、1日を台無しにしようものなら、
失う利益は、数万円どころではないはずだ。
わずかなコストカットと引き換えに、
より多額の利益を失うという現実が見えていないならば、
経営者としてはダメだと言わざるを得ない。

勿論、この弁護士にも深~い理由があったのかも知れない。
私も、全く事情を知らずに一般論として論評しているに過ぎないので、
この弁護士に対する特別な感情や意図は微塵もない。

ただ、長年の謄写事業の中で、弁護士から苦情が入ったのは初めてのこと。
やはり、我々とは、ちょいと感覚が違っていることは間違いない。

この弁護士、自らの報酬体系はキチンと依頼者に説明できているのだろうか……。