241)現金の売買!?
- 2017年5月3日
- 経済・ビジネス
先月下旬、娘が、テレビを見ていて、
「最近、現金がネットで売られているらしいよ。」
という訳の分からない話題を振ってきた。
確かに、テレビを見ると、
「現金5万円が、6万円で売りに出されている」
という報道がされているではないか。
普通に考えれば、「?????」な話。
私は、てっきり、
「発行枚数の少ない希少紙幣なのでは?」
と思ったのだが、どうも、それも違うらしい。
ごく普通の「現行紙幣」が、
相当な高値で売りに出されているのだ。
売りに出されていたのは、
「メルカリ」という「フリマアプリ」。
つまり、フリーマーケット(個人間売買)であり、
株式会社メルカリが、決裁を仲介するため、
安全に出品・購入ができるという仕組みのようだ。
現行紙幣が出品されるという現象は、
このメルカリだけでなく、
「ヤフオク」などのオークションでも見られたという。
結局、この「異常現象」は、
メルカリやヤフーが、すぐに「出品禁止」としたため、
今では、すっかり見られなくなったようだ。
だが、この訳の分からない現象は、一体何だったのか?
よくよく調べてみると、どうも、
メルカリやヤフオクの決済方法に「秘密」がありそうだ。
従来、個人間売買の決済方法といえば、
「銀行振込」か「代金引換(代引き)」であった。
ところが、メルカリでは、
「クレジットカード払い」や「ポイント払い」が可能。
では、何故、この決済方法だと、
「現行紙幣を高額で買いたい」という人が現れるのか。
まずは、クレジットカード払い。
日本に複式簿記を輸入したのは福沢諭吉だそうで、
「debit」(デビット)=「借方」(資産)
「credit」(クレジット)=「貸方」(負債)
と翻訳したのも福沢諭吉なんだそうだ。
何が言いたいかというと、
クレジットカード決裁は、「負債」だということ。
つまりは、「借金そのもの」である。
対して、デビットカードというのは、
「資産」(預金)の範囲で決済するというものだね。
で、どうしても、「今」現金が欲しいという人は、
クレジットカードで「借金」をしてまでも、
メルカリに出品されている現金をゲットしたい!のだ。
クレジットカードの支払方法も、
「リボ払い」なんかにしてしまえば、
毎月5000円程度の定額払いでよいので、
当面の生活はしのげる!と安易に考えるのだろう。
だが、5万円を元金とするならば、
1万円の金利は、まさに「暴利」という他はない。
年率に換算すると、240%(!)だからね。
しかも、本来、金利であるはずの1万円に、
今度は、リボ払い(年率15%ほど)の金利までかかり、
まさに「金利が金利を生む」アリ地獄へと陥ることに。
こんなことをしてまで、
5万円の現金を手に入れたい人というのは、
ありとあらゆる金策が尽きてしまった人なんだろう。
当然、消費者金融も目一杯利用しているだろうし、
クレジットカードのキャッシング枠も使い切ってるはず。
そして、それこそメルカリを利用して、
家にある「売れる物」は売り尽くしてしまったに違いない。
結局、クレジットカードのショッピング枠を現金化する、
という最終手段でしか借金ができないということなのだ。
だが、この「ショッピング枠の現金化」は、
カード規約に違反するので、カード会社が知れば、即アウト。
「打ち出の小槌」たるクレジットカードも、使えなくなる。
まあ、ここまでいったら、サッサと自己破産した方がいい。
ところで、メルカリのルールでは、出品者は、
販売価格の10%をメルカリ事務局に納入するそうだ。
6万円なら、6000円を納入することになるが、
それでも、出品者は、「4000円」を儲ける計算になる。
何とも、「濡れ手で粟」の商売だが、
これを業としてやり始めたら、もちろん、違法金融だ。
まさに、闇社会の「貧困ビジネス」という感じ。
よくもまあ、こういう所に目を付けるもんだよねえ……。
さて、次は、ポイント払いだ。
メルカリでは、出品者は、
売買代金をメルカリ事務局から受け取ることになる。
この際、「銀行口座」が必要とされている。
ところが、世の中には、銀行口座への入金を嫌う人がいる。
例えば、借金だらけで、銀行口座の差押えをされちゃう人。
例えば、生活保護を受けている人。
銀行口座の差押えをされる恐れがあれば、
銀行口座への入金は、当然に嫌だよね。
生活保護を受けている人にしても、
役所が銀行口座を定期的にチェックするので、
銀行口座への入金があることが役所に知れてしまうと、
受給した生活保護費を返還せねばならない、とされる。
という訳で、こういう人たちは、
銀行口座への入金ではなく、「現金」で受け取りたいのだ。
そこで、活用できるのが、ポイント払い。
メルカリを利用して、まずは、何かを出品する。
それが売れた時に、銀行口座への入金ではなく、
ポイントと交換するのだ。
そして、そのポイントを利用して、
今度は、出品されている「現金」を購入する。
こうすれば、出品者から現金そのものが送付されてくる。
なるほど、うまく出来た話だよなあ。
当事務所は、大手損保の顧問をしている関係上、
交通事故案件が多く、特に「加害者」側に立つことが多い。
そうすると、被害者が生活保護受給者ということがある。
交通事故の損害賠償金も、役所から見れば「収入」なので、
賠償金をもらうと、受給した生活保護費を返還せねばならない。
そこで、そのような被害者は、
「銀行振込ではなく、現金でもらいたい」と要望するのだ。
だが、日々大量の処理をしている保険会社としては、
逐一、個別の要請に応じることは難しいし、
現金での支払となると、領収証を受領せねばならず、
その管理・保管上の問題も生じてしまうので、
このような要望は、基本的にはNGとなることが多い。
まあ、かわいそうではあるが、
生活保護費の原資が税金である以上、やむを得まい。
以上のごとく、
「現金の売買」という奇妙な現象は、
「現金が欲しい」という特殊な需要に基づくようだ。
でも、こういう手段で「現金」を求める境遇自体が悲しい。
以前にも書いたが、マシュマロテストというのがある。
被験者である子どもは、
気が散るものが何もない机と椅子だけの部屋に通され、
椅子に座るよう言われる。
机の上には皿があり、マシュマロが一個だけ置いてある。
実験者は、「私は用がある。それはキミにあげるけど、
私が戻ってくるまで、15分間食べるのを我慢したら、
マシュマロをもう一つあげる。
私がいない間にそれを食べたら、二つ目はなしだよ」
と言って部屋を出ていく、という実験だ。
我慢して二つ目のマシュマロを手にした子どもは、
その後の追跡調査で、社会的に成功していたという話。
やはり、このマシュマロテストのごとく、
「今の快」と「未来の快」のいずれを選択するか、
という重要な意思決定の場面において、
「今の快」を選択する人というのは、
「借金地獄」に陥る可能性があるんだよねえ。
もちろん、事業者ならば、よい借金というのはある。
借金を投資に回して、それ以上の利益を生めばよい。
だが、全く利益を生まない生活者においては、
住宅ローンや自動車ローンは、まだよいとしても、
生活費や遊興費のための借金は、ダメだよねえ。
「今の不快」を選び、「未来の快」を招くのが、投資。
「今の快」を選び、「未来の不快」を招くのが、借金。
「今の快」を優先してしまう人というのは、
「給料日前なんで…」というセリフを言う人なのでは。
給料日前だから金欠で、給料日後だから金満というのは、
あまりにも、計画性の無い遣り繰りだもんねえ。
まさに、アリとキリギリスの話。
一度、キリギリスの生活を憶えちゃうと、脱却は難しい。
とにかく、コツコツと、だね。