256)BtoCビジネスは難しい
- 2017年11月5日
- 経済・ビジネス
TVコマーシャルや所属弁護士のTV出演などで、
知名度抜群の弁護士法人アディーレ法律事務所が、
東京弁護士会から「業務停止2ヶ月」という、
大変重い懲戒処分を受けた。
懲戒の対象となった行為は、
「1ヶ月間限定」と謳った割引キャンペーン広告を、
4年10ヵ月間も継続した、というもの。
今後、どうなるかは分からないが、
アディーレのような「BtoCビジネス」にとっては、
2ヵ月間もの業務停止は、存亡の危機と言ってもよい。
業務停止処分を受けると、全ての契約は解除となる。
通常の委任契約・顧問契約・広告契約など、全てだ。
報道によれば、
アディーレが抱える案件数は、9万件。
つまり、9万人の依頼者が、
ある日突然、依頼する弁護士から解除通告を受け、
「別の弁護士を探して下さい」
と言われてしまうワケだ。
これは、もう大混乱以外の何物でもない。
現に、弁護士会には問い合わせが殺到し、
この「9万件の宝の山」を狙って、
依頼者争奪合戦を展開する法律事務所も現れている。
ところで、
アディーレの所属弁護士数は、187人。
支店数は、全国に85カ所。
従業員数は、1000人超。
これだけの巨大な組織を維持するためには、
恐ろしいほど巨額の固定費が必要となってくる。
その固定費をカバーするだけの巨額の売上がないと、
組織を維持することすら出来ない。
アディーレは、法人相手のBtoBビジネスではなく、
消費者相手のBtoCビジネスを展開していた。
つまり、巨額の売上を計上するためには、
どうしても、巨額の広告宣伝費が必要となる。
結果、人件費と事務所家賃という、
法律事務所の2大固定費に加えて、
広告宣伝費という巨額の固定費がオンされてしまう。
すると、その膨張した固定費をカバーするために、
さらに、巨額の売上が必要となり、
支店拡大・弁護士増員という、
「魔のスパイラル」に陥ってしまうのだ。
現に、アディーレの場合、
2009年10月~2015年7月までの売上が、
約270億円だったという。
要するに、年間50億円規模の売上が必要だったワケ。
一般の消費者相手に、毎年毎年、
これだけの売上を維持し続けるのは並大抵じゃない。
とにかく、経営の基本は、
「収入の安定化」と「経費の最小化」
に尽きる。
BtoCビジネスでは、
どうしたって、収入は「不安定」になる。
個人事務所で、経費を最小化するならば、
そもそも大した収入が必要とならないので、
収入の不安定性は致命的とならない。
ところが、アディーレのごとく、
組織が巨大化してしまえば、
巨額の収入が無いと、途端に破綻してしまう。
そのような状況での、2ヶ月の業務停止だ。
この2ヶ月は、収入が一切途絶え、
そして、あらゆる「ペナルティ」も発生するはず。
で、3ヶ月後には収入が回復するのかと言えば、
そんなはずはない。
9万件を抱えるようなレベルに戻すのは無理だろう。
当然、組織を縮小していかないと存命すら難しい。
今さらながら、今回の件を見ていて、
BtoCビジネスは、大きくするべきではない、
との確信を得た。
つまり、
「固定費を不安定な収入で賄っていく」
というのがBtoCビジネスなのであるから、
固定費は極力抑えていかないとダメなんだよね。
本年1月現在、
アディーレよりも大人数の法律事務所が5つある。
次のとおりだ。
1 西村あさひ法律事務所 535人
2 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 425人
3 TMI総合法律事務所 388人
4 長島・大野・常松法律事務所 386人
5 森・濱田松本法律事務所 378人
いずれも、企業法務系の巨大ローファーム。
つまり、BtoBビジネスなのである。
BtoBビジネスの利点は、「収入の安定化」である。
だからこそ、これだけの大所帯でも成り立つのだ。
その意味で、BtoCビジネスでありながら、
ここまで巨大化したアディーレというのは、
本当に異色の存在。
BtoCビジネス特有の「収入の不安定性」をカバーすべく、
広告宣伝に力を入れ過ぎたあまり、
ついつい「やり過ぎてしまった」というのが、
今回の事件の本質なんだろう。
当事務所は、現在、
弁護士3名・事務員3名の、小所帯。
このくらいが「ちょうどいい」感じだ。
それに、当事務所は、BtoBビジネスが主体。
まあ、当事務所が目指してきた路線は、
間違ってなかった、ということなのかな。