沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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100)この国の「司法観」

なんと、今回の投稿で、本ブログ「100本目」と相成りました!!
いやいや、めでたし・めでたし!!

2009年4月に本ブログをスタートして以来、3年半で100本。
今後も、月2~3本ペースをキープして、200本・300本と続けていきた
いところですな。

皆様、今後とも、どうぞヨロシクです!!

というワケで、いざ本題へ。

御承知の方も多いだろうが、現在、司法修習を受けている第65期司法修習生
から「給与」が廃止されてしまった。
従来、司法修習生には月額20万円ほどの給与が国から支給されていたのだ
が、司法試験合格者が急増したことで「国の財政的負担」が大きくなったこと
もあって、「将来的に稼げることになる弁護士を何故に税金で養わねばならん
のか。」という声が高まった為である。

私は第49期司法修習生だったが、当時、修習期間は2年だった。
つまり、前後2期の司法修習生が同時に修習を受けるので、国が1年間に負担
する司法修習生の給与は、私の時代で、ざっと1500人分(2年分の司法試
験合格者)ということになる。
金額にすると、約50億円といったところか。

ところが、司法制度改革のもと、司法試験合格者がドンドン増加していったの
で、第53期生からは修習期間が1年6ヶ月に短縮され、ロースクールと新司
法試験がスタートした第60期からは1年となってしまった。

それでも、現在の制度では2000人超の司法修習生がいるので、国の年間給
与負担額は、修習2年の時代よりも大きくなり、ついに「財政難」を理由とし
て、給与がカットされてしまったというワケ。

まあ、多くの国民は、「将来的に稼げることになる弁護士を何故に税金で養わ
ねばならんのか。」という声には賛同するのであろう。

もっとも、現状は「稼げる?」と首を傾げたくなる惨状ではあるが、医者・弁
護士などと並び称せられるくらい、弁護士=高額所得者というのが、世間一般
的なイメージではあろう。

で、国民の声を代弁したいマスコミや国民の人気を取りたい政治家も、みんな
給与カットには大賛成だ。

そして、司法試験合格者の輩出が生命線のロースクールも、財政難を理由に司
法試験合格者を低く調整されては死活問題に陥るので、やはり給与カットには
大賛成なのだ。

結果、給与カットに反対しているのは司法関係者だけ、などと思ったら、最高
裁も法務省も、なんと「賛成」しちゃってる始末。

なんで?と思うが、これにはカラクリがある。

給与カットの代わりに、第65期からは、国が生活費を貸してくれるという制
度がスタートしたのだが、裁判官や検察官になった者(任官者)については、
返済を免除するという運用が実施される見込みだからだ。
まあ、これをあからさまにやると「官尊民卑」との非難を受けるので、表向き
は「公益活動に深く従事する者」などという条件にするのであろうが、現実に
は、任官者を優遇する運用となることは間違いない。

ロースクールが誕生して、学生のうちから優秀な者を囲い込もうという「青田
買い」の動きが大手法律事務所で活発になっており、少しでも優秀な若い者が
欲しい最高裁や法務省は、この動きを面白く思っていないらしい。
そこで、貸金の返済免除という「特典(=ニンジン)」をぶら下げて、優秀な
若者に「任官はいいぞ!」ということをアピールしたいそうな。

ホンマかいな?と思うかも知れないが、上記の見解は、私一人の勝手な憶測で
はなく、多くの有識者が指摘しているところなのだ。
もちろん、最高裁や法務省が公式に認めるワケないけどね。

ということで、給与カットに反対しているのは日弁連だけというのが悲しい現
実だ。

だが、日弁連の反対の理由も「これでは、金持ちしか弁護士になれないではな
いか!」という実にショボイもの。

いやいや、それを言うなら医者だってそうではないか。
私大の医学部なんて、庶民にとっては「どこの世界の話?」というくらい桁違
いの学費がかかる。
当然、庶民が目指すのは国公立大の医学部しかあり得ない。
でも、それだって、ロースクール並みの学費は必要だし、超優秀でなければ入
れない国公立大の医学部に入るための「教育投資」はハンパなものではない。

そう、この国では「金持ちしか医者になれない」と言えよう。
それに比べれば、金のかかるロースクールを経ないでも資格を取れる道(予備
試験に合格すれば司法試験を受験できる)が残されている弁護士の方が、まだ
マシではなかろうか。

この問題を、国の財政難とか司法修習生の経済的困窮とかの「経済問題」にし
てしまうから、お互いにツッコミどころ満載の低レベルの議論になってしまう
のである。

そうではなく、この問題は、ズバリ「国家としての司法観」が問われている重
大な国策問題なのだ。

つまり、三権の一翼を担う「司法」というインフラをどう整備するか、という
国家的プロジェクトに関わる大問題なのである。

国家としての機能をキチンと果たすには、立法・行政・司法、さらには、防衛
・警察・医療・福祉といった社会的インフラが完全に整備されていかねばなら
ない。
勿論、インフラ整備には、物的整備とともに人的整備が必要不可欠である。

司法というインフラを支える裁判官・検察官・弁護士を育てるのは国の重大な
責務のはずなのに、これを「財政難」という理由だけで責任放棄しようという
話なのである。

司法というインフラ整備の受益者は、何を隠そう「国民」自身である。
従って、「将来的に稼げることになる弁護士を何故に税金で養わねばならんの
か。」という声が如何に的外れなものであるか、お分かりであろう。

社会的インフラの整備に国が金を出さない、こんなヒドイ例は他にはない。

例えば、医療。
医師国家試験に合格すれば医師免許は取得できるが、その後、2年間の臨床研
修を受けなければ医師としては活動できない。
その2年間の研修中、月額30万円程度の給与が支給されるが、原資は国庫で
ある。
医師なんて、弁護士よりもはるかに「稼げる」はずだが、「将来的に稼げるこ
とになる医師を何故に税金で養わねばならんのか。」という声は一切聞かれな
い。
ちなみに、医師は毎年8000人近く誕生している。

次に、防衛。
御承知のとおり、防衛大学校の学生には、国から給与が支給されている。
これまた、「将来的に収入が安定することになる公務員を何故に税金で養わね
ばならんのか。」という声は一切聞かれない。

司法修習生の給与カットというのは、突き詰めれば、憲法にも抵触する重大な
人権侵害行為である。
まあ、「憲法の番人」である最高裁が賛成している以上、違憲判決は出るはず
ないけど。

司法修習生は、修習中、アルバイトをすることすら許されていない。
怠けたらクビにするぞと脅され、アルバイトもするなと言われ、でも、生活費
は貸してはやるけど給与はあげないよ、と言われる。

裁判官・検察官・弁護士になる道が他にない以上、職業選択の自由も実質的に
奪われているようなもんだ。
こんなヒドイ人権侵害はないよなあ。

日本は、三権分立とは言っても、官僚が支配する行政の力が圧倒的に強く、そ
の中でも予算を握る財務省の力が絶大である。
最高裁や法務省は、昔から予算を獲得するのが下手で、この国の司法予算は先
進国とは思えないヒドイ状況なのだ。

諸外国の例を見ても、司法インフラに国家予算を投じない先進国なんて、どこ
にもない。

日本の医師制度のごとく、司法試験に合格したらすぐ法曹資格を与えて、その
後に実務研修を課す国が多いのだが、研修中はちゃんと給与が支給される。
もっとも、どの時点で資格を付与するかは、純粋に政策的な問題なので、本質
的な問題ではないのだが。

日本と同じく、司法試験に合格したら司法修習生という身分だけを与え、その
後の修了試験に合格してようやく法曹資格を付与するという制度を採用してい
る国の代表格はドイツである。

ドイツの司法修習は2年(有給)で、年間1万人(!)が司法試験に合格する
らしいので、結局、2万人分(!)の給与を国が負担しているようだ。
給与月額は10万円程度で、かつての日本の半分ほどだが、裁判所の許可を受
けてアルバイトすることも出来るとのこと。

やはり、ドイツは「模範的法治国家」ということなのだろう。
日本は、多くの法制度をドイツから輸入したのに、肝心の「法の精神」は輸入
し忘れたようだ。

日本とドイツ。
ともに「敗戦から復興した国」同士だが、経済では「いい勝負」を演じてきた
のに、司法に関しては「雲泥の差」がついちゃったね……。