沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

  • 最近の投稿

  • カテゴリー

  • 2024年11月
    « 10月    
     123
    45678910
    11121314151617
    18192021222324
    252627282930  
  • アーカイブ

  • 法律相談
  • 顧問契約

129)政治家は法律家たれ!

 鳩山由紀夫という「元首相」の肩書を持つ「一民間人」が、日本の国益を損なう「暴走」を繰り返している。

 尖閣諸島について、「中国側から見れば盗んだと思われても仕方がない。」と香港のテレビで明言したかと思えば、帰国後のインタビューでは「そんなこと言ってない。」などと訳の分からない回答。
 もう、全く以て、彼の頭の中は理解不能だ。

 まあ、善意に解釈すれば、彼の政治的スローガンである「友愛」の精神から生じたものなのであろうが、元首相という肩書の重さを微塵も感じず、日本の国益を無視して、相手国にひたすら「迎合」する姿勢は、政治家としての資質ゼロと断言してよい。

 ある政治評論家が、彼のことを「善意の暴走族」と揶揄していたが、なかなか上手い表現だ。

 仮に、領土問題について、日本の立場が本当に「間違いかも?」と感じたならば、日本国内で大いに議論を喚起すればよいだけの話であり、日本国民のコンセンサス無しに相手国に迎合するなど、言語道断だ。

 政治家というのは、政策を実現するのが仕事である。
 そして、政策を実現する唯一の手段は、法律を作ることに他ならない。

 従って、政治家には、法律家としての素養が絶対的に必要なのだ。
 アメリカの国会議員の多数が弁護士出身であるのも、それ相応の必然性があるということ。

 鳩山由紀夫氏はどうかと言えば、東大の工学部出身。
 バリバリの理系人間である。
 そう言えば、その後に首相になった菅直人氏も、東工大の理学部出身…。

 いずれにしても、鳩山由紀夫氏に法律学の素養が「ある」という保証は全く無いワケだ。

 彼は、自身の発言を批判する菅義偉官房長官、ひいては、日本国政府に対して、「もっと勉強していただきたい。」とまで発言した。
 では、本当に、彼は「シッカリと勉強」したんだろうか?

 以下、ちょいと長くなるかも知れないが、日本の領土問題について「法的視点」から簡単に考察してみたい。
 ただし、あくまでも、私自身の浅い理解に基づく考察ゆえ、国際法学者からの深い突っ込みには耐えられない。念のため…。
 

 まず、領土というものは、如何にして決せられるのか。

 第1は「条約」である。
 これは、国家間の合意であり、全てに優先する判断基準だ。

 第2は「先占」や「征服」である。
 先占というのは、どこの国の領土でもないものを「早い者勝ち」で獲得することであり、征服というのは、他国領を武力で自国領に編入することだ。
 もちろん、現在の国際法の下では、征服行為は「違法」だが、第一次世界大戦までは「合法」であった。
 過去の征服行為が全て違法とされたら、今ある世界地図はゴミ同然となってしまう。

 第3は「時効(禁反言)」である。
 これは、他国が自国領として占領している状態に「適時に抗議」しないと、他国領になってしまうことがあるよということ。
 禁反言というのは、自分の過去の言動に反した主張をすることを禁止する法理であり、過去に他国の領有を黙認していたのに、今さら文句を言うな!という話だ。

 では、日本の領土を確定した条約とは何か?と言えば、1952年に発効した「サンフランシスコ講和条約」である。

 北方領土・竹島・尖閣諸島に関連する条項は、次のとおり。

★ 日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

★ 日本国は、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

★ 日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。

★ 日本国は、北緯二十九度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島、西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島を合衆国を唯一の施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。

 ちなみに、ソ連(ロシア)・中国(台湾)・韓国のいずれも、このサンフランシスコ講和条約には調印していないが、その後の日本との個別の2国間条約においては、サンフランシスコ講和条約の法的有効性が問題視されたことはない。

 結局、日本が「放棄」した地域に、北方領土・竹島・尖閣諸島が含まれるのか?ということが、第一に問題となるのだ。

 北方領土に関するロシアの言い分は、北方領土は「千島列島に含まれる」というもの。
 日本は、当然ながら、全て「含まれない」という立場だ。

 一般的には、「択捉島・国後島は千島列島の一部」で、「色丹島・歯舞群島は北海道の一部(属島)」と理解されているようなので、日本の主張は、条約の文言解釈だけからすると、やや不利なのかも知れない。
 もちろん、日本側の言い分にも一理はあるのだが、日本が有利という情勢ではないようだ。

 現に、1956年の「日ソ共同宣言」では、2国間での平和条約締結後に「色丹島・歯舞群島」だけは日本に引き渡すことが合意されている。

 また、竹島に関する韓国の言い分は、竹島は「欝陵島の一部(属島)」というもの。
 でも、これは、さすがにムリな解釈。

 現に、サンフランシスコ講和条約の内容について、韓国はアメリカに対して猛烈に抗議し、「済州島、巨文島、欝陵島、独島(竹島)及びバラン島を含む……」という条項に修正するよう要望したが、アメリカは「この島(竹島)は、かつて朝鮮によって領有権の主張がなされたとは見られない」として一蹴した事実がある(ラスク書簡)。
 韓国が、竹島を条項に追加するよう求めたということ自体が、竹島が「欝陵島の一部(属島)」ではないことを韓国自らが「自白」したに等しい。

 さらに、尖閣諸島に関する中国(台湾)の言い分は、尖閣諸島は「台湾の一部」というもの。
 でも、これも、さすがにムリな解釈。

 アメリカは、尖閣諸島が「南西諸島の一部」を構成する日本の領土であるという前提でアメリカの施政下に置き、1971年の日米沖縄返還協定で、尖閣諸島の施政権が日本に返還されたという経緯があり、台湾の一部なんていう話は論外だ。

 以上のとおり、条約の解釈問題だけで法的決着が付きそうなのは、北方領土だけである。
 ロシアは、北方領土が、元々日本の領土であったこと自体は争っていないので、サンフランシスコ講和条約の「千島列島」という文言解釈だけが法的争点ということになり、前述のとおり、日本側が有利という情勢ではない。

 だが、竹島と尖閣諸島の問題は、サンフランシスコ講和条約で日本が放棄した地域には該当しない以上、では、元々どこの領土だったのか?ということが次の法的争点となる。

 まずは、竹島について。

 竹島は、1905年に島根県に編入され、韓国は、それ以前の「先占」を主張しているものの、決定的な証拠は何1つ無い状況。

 また、韓国は、日本によって侵奪されたものだとの主張も展開するが、侵奪されたという議論は、竹島が元々韓国領だったことが証明されない限り成り立たないものだし、仮に、そうだとしても、当時は、侵奪行為が違法だったワケではないという反論も成り立つ。
 もちろん、侵奪行為自体も存在しないのだけれど。

 ということで、竹島は日本国の領土であって、現在は、韓国による不法占拠状態というのが常識的な法的結論だ。

 次に、尖閣諸島について。

 尖閣諸島については、もう1つ検討すべき条約がある。
 それが、鳩山由紀夫氏が「力説」するところの「カイロ宣言」だ。

 カイロ宣言では、「満洲、台湾及び澎湖島のような日本国が清国人から盗取したすべての地域を中華民国に返還する」とされ、その後の「ポツダム宣言」では、次のような条項が盛り込まれた。

 第8条「カイロ宣言の条項は履行されるべし。又、日本国の主権は本州、北海道、九州及び四国ならびに吾等の決定する諸小島に限られなければならない。」

 で、この「吾等の決定」した「諸小島」というのが、サンフランシスコ講和条約で日本が「放棄した以外の島」ということになるワケ。

 だが、中国との間ではカイロ宣言も依然として有効なので、サンフランシスコ講和条約で決まったこととは別に、カイロ宣言でいうところの「日本が中国から盗取した全ての地域」は中国に返さねばならない、という理屈が一応は成り立つ。

 当然、中国としては、尖閣諸島は、日本が中国から盗取したと主張する。

 これに、鳩山由紀夫氏は見事に同調してしまったワケだが、盗取したという事実認定をするためには、尖閣諸島が、元々中国領であったことを大前提として、中国の意思に反して盗み取ったことが証明されねばならない。
 そして、盗取の時期としては、日清戦争を想定していることも明らかだ。

 日本が、尖閣諸島を領有したのは1895年である。
 中国は、それ以前の「先占」を主張しており、16世紀の文献に中国領を証する記載があるとの指摘もあるが、国際法上、決定的ではない。
 従って、いずれの国が「先占」したかという法的判断は、容易ではない。

 では、日清戦争に乗じて盗取したのか?という点はどうか。

 日清戦争は、1894年~95年であり、時期的には符合しそうだ。
 だが、尖閣諸島が「無主地」か否かの調査は、1885年からスタートしており、10年間の調査の末、尖閣諸島は「無主地」と判断されたという経緯があり、日清戦争後の下関条約でも尖閣諸島についての言及は一切ないことからすると、当時、尖閣諸島が中国領であったという共通認識はなかったことが明白である。

 従って、カイロ宣言に基づいて、尖閣諸島を中国に「返還」するという理屈は成り立ち得ない。

 だが、そんなことよりも何よりも、尖閣諸島は、1968年に周辺地域に石油資源が埋蔵されている可能性が指摘されたことを受けて、1971年になって、初めて、中国・台湾が領有権を主張し始めたという「事実」こそが重大である。

 日本が領有を開始した1895年から実に76年もの歳月が流れているのであり、この間、中国・台湾は何一つ異議を述べていないのだ。

 これは、国際法上の原則である「禁反言法理」に明白に抵触するものであり、現時点で、中国・台湾が尖閣諸島の領有権を主張すること自体が許されないのである。

 以上、私の浅はかな理解では、北方領土問題についてはビミョーな法的問題が存するものの、竹島・尖閣諸島については、先占法理・禁反言法理により日本の領土であると明白に認められるはずなのだ。

 いずれにしても、カイロ宣言だけを捉えて、だから尖閣諸島を「中国に返しなさい」という論法は、およそ、法律家としての素養のない者の発言である。
 しかも、盗んだか否かの検証も無いままに…。

 おそらく、鳩山由紀夫氏は、覚えたての知識を「鵜呑み」にして、軽率な発言を繰り返しているに違いない。

 彼は、かつて、「首相を退任後、政界に残ってはいけない。影響力を残したいという人が結構いるが、首相まで極めた人がその後、影響力を行使することが政治の混乱を招いている。」とまで言い切った人物だ。

 そんな男が、政界を引退した後にまで、日本の国益へ最悪の影響力を行使し続けている…。
 
 私も、官房長官同様、開いた口が、未だに塞がらない…。

 彼には、是非とも、法科大学院への入学をおススメする!!