167)弁護士の産休・育休
- 2014年10月25日
- 法律・政治
労働者には、産休・育休という権利がある。
産休は、「労働基準法」に規定がある。
出産予定日前の6週間(産前休業)と出産翌日から8週間(産後休業)は休業できるという制度だ。
産前休業は、文字どおり、労働者の「権利」だが、産後休業のうち6週間は、本人の意思に関わらず、必ず休業しなければならないという労使双方の「義務」規定でもある。
一方、育休は、「育児介護休業法」に規定がある。
産後休業の翌日から、子供が1歳になるときまで休業できるという制度だ。
父母が同時または交代で育休を取得する場合は、子供が1歳2ヶ月になるまで延長できる。
ちなみに、産休中も育休中も、雇用主に給与の支払義務はない。
そこで、産休中は、「健康保険」から「出産手当金」(給与の3分の2)が支給される。
なぜ、健康保険なのか?というと、産休の制度趣旨が「母体の保護」だから。
また、育休中は、「雇用保険」から「育児休業給付金」(当初180日間は給与の67%、181日目以降は給与の50%)が支給される。
なぜ、雇用保険なのか?というと、育休の制度趣旨が「雇用の継続」だから。
育児のために、一旦、退職という選択をせざるを得ないことになると、せっかく築き上げたキャリアが中断してしまう。
その後の再就職の困難さやゼロからの再スタートというハンディを考慮すると、これは、看過できない著しい不利益である。
無給でも、雇用さえ継続されていれば、育休後のキャリア再開もスムーズにいく、というワケ。
そして、キャリア継続がスムーズにいくためには、夫婦で協力すべし。
つまり、夫婦で、育児の「時間をシェア」するのがベストだね。
ということで、夫婦で育休を取得する場合には、期間が延長されるのだ。
これを、「パパ・ママ育休プラス」という。
従来、日本社会では、専業主婦である妻に育児がすべて任され、
旦那は、国際的にも批判の多い超長時間労働を強いられてきた。
我が家も、その例外ではなかった。
私の場合、共稼ぎとなった今ですら家事をやらないダメ夫だが…。
だが、今や、共稼ぎが「当たり前」となっている若手世代。
これからは、社会全体が「育休の理念」を正しく共有すべきだね。
そして、さらに、産休中も育休中も、社会保険料の支払が免除される。
これは、本人・雇用主ともにだ。
事ほど左様に、労働者の産休・育休は、制度として非常に手厚い内容だ。
では、弁護士のごとき自営業者はどうだろうか?
自営業の場合、権利も何も、決めるのは「自分自身」だから、休みたければ勝手に休めばよいということにはなる。
だが、自営業者が加入する国民健康保険には、出産手当金なんて無いし、国民健康保険にしろ国民年金にしろ、産休中・育休中の保険料免除などという気の利いた制度は無い。
それに、もともと雇用保険なんぞには入っていないのだから、当然ながら、育児休業給付金なんて無縁だ。
つまり、自営業者が産休・育休中に失う所得を補填してくれる公的制度は何も無く、事業経費(固定費)だけは容赦なく降りかかるというワケ。
弁護士業の場合、主な固定費は、
事務所費・人件費・弁護士会費の3つだ。
このうち、事務所費と人件費は、決断さえすれば、どれだけでも縮小できる。
自宅兼事務所にして、事務員「なし」なら、固定費はゼロだ。
だが、どうしようもないのが、弁護士会費。
実は、弁護士会費を6ヶ月滞納すると、弁護士会から「懲戒」されてしまう。
つまり、最悪、「退会・除名」なんていう事態もあり得るのだ。
弁護士は、弁護士会に所属していないと、弁護士業が出来ない。
だから、どれだけ無理をしてでも、会費だけは納入し続けないといけない。
でも、この会費が、めっぽう高い!
三重弁護士会の場合、日弁連会費(月額1万9000円)と合算すると、月額5万3000円の会費を払い続ける必要がある。
産休・育休のために、この会費がどうしても払えない!ということになれば、残された選択肢は、「登録抹消」しかない。
現実に、最近では、若手弁護士の登録抹消が増えており、会費負担が一因であろうとも推測されている。新人弁護士の「登録控え」も同じ理由。
だが、一旦登録抹消をすると、再登録の際、新規登録と同様のコスト(登録免許税、日弁連登録料、入会金など)が掛かってしまうし、登録番号も新しい番号になってしまう。
登録番号というのは、案外、愛着があるものなので、これが変わってしまうというのは、相当に寂しいものなのだ。
また、弁護士国民年金基金や弁護士会扱いの団体保険などの加入資格も喪失する。
さらに、弁護士協同組合からも脱退せざるを得なくなる。
そして、何よりも、登録抹消中は、一切の弁護士活動ができないので、育児中に家でちょっと仕事、なんていうことすら出来なくなるし、せっかく築いた人脈だって、すべて途絶えてしまう。
とまあ、登録抹消は、本人にとっては大変な不利益なのである。
で、出産前後・育児期間中の会費負担を何とか軽減できないものか?
という発想が当然のごとく生じるワケ。
産休・育休というのは、いずれ終了することが確実な「一時的」なものなんでね。
ということで、弁護士会は、今ようやく、この問題に取り組み始めた。
まず、出産前後については、日弁連は、出産予定日の属する月の前月から、出産予定日の翌々月までの4ヶ月間、会費を免除しており、三重弁護士会も同様の規定を置いている。
そして、育児期間については、日弁連は、育児をする子の出生日の属する月から、その子が2歳に達する日の属する月までの間における任意の連続する6ヶ月以内の期間、会費を免除することを決定し、来年4月から施行することとした。
当然、日弁連がこのような決定をしたのなら、三重弁護士会も同様の規定を置くべし、ということになろう。
弁護士会や弁護士にとって、会費というのは「税金」みたいなもんだから、会費に関するルールというのは、「会則」という弁護士会の最高法規の中で規定されている。
そして、最高法規である会則を改正する場合、普通の多数決ではダメで、総会の特別決議(3分の2以上の賛成)をクリアーする必要があるとされる。
で、来年2月に予定している総会では、この問題が一番の論点となるはず。
だが、この問題、実は、各人の「結婚観・仕事観・人生観」などが複雑に絡み、全員が諸手を挙げて賛成!というワケでもないようなのだ。
まあ、ここは会長としては、腹をくくってやるしかないっすけどね。
これが会長としての最後の大仕事だと思って。