168)10・5・3・1
- 2014年11月3日
- 法律・政治
政治家の「カネ」絡みの不祥事報道に触れる度、これを思い出す。
これは、「トー・ゴー・サン・ピン」と読む。
税務署による課税所得の捕捉率(=把握率)に関する「業種間格差」を表現し
た言葉とされる。
要は、業種によって、所得の捕捉率が10割~1割までの「格差」があるとい
う、とんでもない話。
逆に言えば、業種によって、5割~9割もの「課税漏れ」が生じているという
ことなのだ。
源泉徴収されている【給与所得者】の捕捉率は、当然ながら「10」。
まさしく「ガラス張り」状態だもんね。
従って、ほぼ「課税漏れ」はゼロということ。
では、【自営業者】は?というと、その捕捉率は「5」。
確定申告なので、どうしても正確性はガタッと落ちる。
自主申告の制度である以上、判断に迷ったら、「えーい!経費にしちゃえ!」
となることが多いに違いなかろう。
もちろん、端っから、収支を誤魔化している輩もいるだろう。
それに、事業費と家計費を厳密に峻別すること自体が不可能なことでもあり、
どうしたって、家計費の一部が「適法な経費」となり得る場合が多いのだ。
だから、極めて正確に申告していても、数字上の事業所得額よりは、ずっと家
計は豊かであることが多いかと思われる(実感)。
そして、捕捉率「3」というのが、【農林水産業者】だ。
農林水産業の場合、収穫に関する取引の相手方がいないので、税務署が収穫高
を正確に把握すること自体、およそ不可能な話。
本来、自分達で消費する「自家消費」は、収入に計上しなければならないが、
まあ、現実には「計上漏れ」になっているはず。
ということで、一般の自営業者よりも、さらに捕捉率は低くなるワケ。
で、最後に登場する捕捉率「1」は、もちろん【政治家】だよね。
屁理屈を言えば、ありとあらゆる費用が「政治活動費」になっちゃうワケで。
最近問題になった「SMバー」だって、「この種の店がこの地域に存在するこ
とが風紀上好ましいことか否かを調査してたんですよ。」なんて言い始めた
ら、全否定は出来ないもんね。
それにしても、最近の政治家達の、あまりにも「お粗末」な会計処理の実態に
は、本当にビックリ仰天だね。
というか、ただただ「呆れるばかり」という表現が正しいか。
大臣に就任した途端に、あれだけの「ボロ」が次々と出てしまうのだから、ま
あ、その他大勢は「推して知るべし」ということだね。
おそらく、政治家に対する税務調査なんて「あり得ない」のであろうから、マ
スコミで指摘されるまでは、本当に「やりたい放題」なんだろう。
地方議員の「政務活動費」にしろ、国会議員の「文書通信交通滞在費」にし
ろ、実費精算方式ではなくて、最初からドーンと支給してしまうという、その
浮き世離れした発想自体、どうにも理解に苦しむところだ。
どちらも国民の「血税」が原資で、しかも「非課税」だというのに…。
地方議員の「政務活動費」に関しては、収支報告書の提出は義務付けられてい
るものの、領収書の添付まで義務付けている自治体は少数派だ。
領収書の添付が不要ということは、何に使ってもOKというのと同義。
国会議員の「文書通信交通滞在費」に至っては、報告や公開の義務すらない。
ここまでくると、堂々と「裏金」を支給しているのと何ら変わらない。
いずれも、地方議員や国会議員の「第2の給与」と言われる所以であり、まさ
に、政治家自らが「脱税の温床」を作っているようなもんだよね。
日本の国会議員の給与は、世界一「バカ高い!」と批判されている。
本来の給与である「歳費」が、月130万円(年1560万円)。
民間のボーナスである「期末手当」が、年635万円。
第2の給与である「文書通信交通滞在費」が、月100万円(年1200万
円)。
第3の給与であろう「立法事務費」が、月65万円(年780万円)。
まあ、ざっと合計すれば、年間4200万円(!)にもなる。
で、諸外国は?といえば、為替レートにもよるが、あのアメリカでさえ、年間
1600万円弱。
あと高い順に、カナダが年間1300万円弱、ドイツが年間1100万円強、
イギリスが年間1000万円弱、韓国が年間800万円弱といった感じ。
もちろん、日本は、本来の給与である「歳費」と「期末手当」だけでも、ぶっ
ちぎりの世界一なのだ。
そして、諸外国には、第2・第3の給与といった「詐欺まがい」の特典は存在
しない。もちろん。
日本の政治家は、ホントに「やりたい放題」なんだよねえ。
とまあ、立法者が自らの不利益となる改革なんてしないものなので、いくら文
句を言っても、何も変わらんだろうけど。
ところで、日本の有職者のうち、実に87%を給与所得者が占めている。
要するに、税務署は、日本国民全体の所得額のざっと95%程度は把握してい
る計算になるのだ。
そうなると、ごくごく限られたマン・パワーで、自営業者の「脱税」を徹底的
に洗い出そうなんてモチベーションは、そうそう湧かないに違いない。
税務署のマン・パワー増大は、結局、血税の投入額を増大させるだけなので、
摘発できた脱税額よりも税務署の人件費増加額の方が多かったりしたら、それ
こそシャレにもならないもんね。
かくして、この「10・5・3・1」という「不公平」は、この先も、ずっと
続くことになるのであろう。残念ながら…。
こんなことを書くと、給与所得者から見れば、「自営業者って羨ましい!」っ
ていうことなんだろうけど、「隣の芝生」は何とやらで、我々からすれば、そ
の「安定感」こそが、ホントに羨ましいけどね。
弁護士人口の急増により、弁護士業が相当にキツイ職業となっていることは御
承知のとおり。
最近では、司法試験に合格しても、経営が「不安定」な弁護士になるのを避け
て、公務員や一般企業への就職を選択する者が多い。
つい先日も、当会の若手弁護士が、一般企業への転職を決断して、弁護士登録
を抹消する意向だという話を耳にした。
もちろん、彼の「真意」は計り知れないが、弁護士としての「自由」よりも、
給与所得者としての「安定」を求める者が多いというのが、紛れもない現状な
んだよねえ。
まあ、未来に夢や希望が全く見出せない限り、「自由」という言葉ほど、虚し
く響く言葉はないものね。