280)離婚慰謝料
- 2019年2月23日
- 法律・政治
まさしく「画期的」な判決である。
本年2月19日、最高裁第三小法廷は、
「夫婦の一方は、
他方と不貞行為に及んだ第三者に対し、
特段の事情がない限り、
離婚に伴う慰謝料を請求できない。」
とする判決を言い渡したのだ。
日本全国の法律実務家が、
「えっ、そうなの?」
と相当に驚いたことであろう。
従来、我々の常識では、
不貞関係にあった配偶者とその相手は、
「共同不法行為者」なので、
不貞をされた他方配偶者に対して、
「不貞慰謝料+離婚慰謝料」を、
連帯して賠償する責任がある、
という法解釈となっていたのだ。
当然ながら、通常は、
不貞慰謝料(損害=不貞をされたこと)より、
離婚慰謝料(損害=離婚に追い込まれたこと)
の方が精神的苦痛がはるかに大きく、
従って、離婚に至ったか否かが、
慰謝料総額に大きく影響していた。
そのため、
不貞の相手方に慰謝料を請求する際は、
離婚に至る可能性が高いか否か、
をシッカリと見極めてから請求する、
というのが実務の常識であった。
ところが、この度の最高裁判決は、
「離婚による婚姻の解消は、本来、
当該夫婦の間で決められるべき事柄」
とした上で、
不貞相手が離婚について責任を負うのは、
「当該夫婦を離婚させることを意図して
その婚姻関係に対する不当な干渉をする」
などの特別な場合に限定されるとした。
さてさて、こうなると、
我々の実務にも大きな影響が生じる。
まず、不貞を発見した場合は、
離婚するか否かに関わらず、
不貞相手に対する請求を早期に検討する、
ということを徹底せねばならない。
何故なら、不貞行為=損害を知ってから、
「3年で時効消滅」となるからだ。
離婚慰謝料ならば、離婚=損害なので、
離婚が成立してから「3年」までは大丈夫ゆえ、
配偶者と不貞相手への請求を同時に検討できた。
今回の最高裁事例も、
不貞を知ってから5年後に離婚しており、
不貞慰謝料請求権は時効消滅しているものの、
離婚慰謝料請求権ならば時効消滅していない、
というタイミングでの提訴であった。
結局、不貞相手に対しては、
離婚慰謝料を請求すること自体が原則ダメ、
ということなので、
不貞慰謝料が時効消滅している以上、
何らの請求も認められない、
という悲しい結論に至ったワケだ。
次に、不貞関係にあった配偶者とその相手、
双方を訴える場合には、
不貞慰謝料=〇〇万円、
離婚慰謝料=〇〇万円と区別した上で、
不貞慰謝料のみが「連帯」責任となる、
という法律構成をする必要が生じる。
まあ、とは言え、
倫理的な価値観としては、私は賛成だ。
元来、夫婦としての貞操義務を負うのは、
双方の配偶者だけである。
従って、最も「悪いヤツ」は配偶者であり、
不貞相手に責任を負わせること自体が、
いってみれば「お門違い」なのである。
下級審の中には、
配偶者と不貞相手では責任に差があり、
異なる慰謝料額を認定していた例もある。
つまりは、
「配偶者が全責任をとるべし」
という流れに向かっているような気もする。
現在、最高裁も、不貞慰謝料については、
不貞相手も賠償責任があるとしているが、
この結論も、時代の流れで変化するかもね。
とにもかくにも、
配偶者を悲しませることは、厳禁なり。