284)キラーゼブラ
- 2019年7月13日
- 法律・政治
先日、某氏から交通取締りにあったとの話が。
某氏いわく、
信号機の無い横断歩道手前で一時停止せず、
待ち構えていた警察官に制止させられて、
「青切符」を切られたとのこと。
ドライブレコーダーを見せて頂いたが、
確かに、左方には歩行者が立っており、
その奥に警察官がいたという状況。
ただ、その歩行者も障害物に隠れて、
その存在に気付きにくい状況だったのも確か。
現に、某氏は歩行者を認識しなかった模様。
横断歩道手前での一時停止違反は、
反則金9000円、違反点数2点。
トホホ……である。
まあ、警察官が待ち構えている状況ゆえ、
反則金ゲット狙いの疑いが濃厚だが、
そうは言っても、道交法違反は確実であろう。
道交法38条1項によれば、次のとおり。
「車両等は、横断歩道…に接近する場合には、
当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等
によりその進路の前方を横断しようとする歩行者
…がないことが明らかな場合を除き、
当該横断歩道等の直前で停止することができる
ような速度で進行しなければならない。
この場合において、
横断歩道等によりその進路の前方を横断し、
又は横断しようとする歩行者等があるときは、
当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、
その通行を妨げないようにしなければならない。」
要するに、「明らかに歩行者がいない」
ことが確認できない限り、まずは「徐行」し、
もしも、「歩行者がいた場合」には、
必ず「一時停止」せよ、というルール。
そもそも、徐行すらしない車両が多いし、
歩行者がいようがいまいが、お構いなく、
猛スピードで駆け抜ける車両もまた多い。
これは、日々の運転で実感するところ。
当地、三重県では、そういう感じなのだが、
どうも、これ自体、地域差が大きいらしい。
日本自動車連盟(JAF)の2018年調査によれば、
横断歩道手前の「一時停止率」は、次のとおり。
【ベスト10】
1 長野県 58.6%
2 静岡県 39.1%
3 石川県 26.9%
4 島根県 26.5%
5 鳥取県 25.6%
6 愛知県 22.6%
7 福岡県 18.4%
8 神奈川県 14.4%
9 新潟県 13.8%
10 千葉県 11.9%
【ワースト10】
38 京都府 3.8%
39 福島県 3.5%
40 宮城県 3.4%
41 岐阜県 2.2%
42 青森県 2.1%
42 東京都 2.1%
44 和歌山県 1.4%
44 三重県 1.4%
46 広島県 1.0%
47 栃木県 0.9%
三重県は、あろうことか、
全国ワースト3位となる一時停止率の低さ!
一方、長野県だけが突出して高いが、
ベスト10位の千葉県ですら、
10台に9台は一時停止しないということ。
まあ、長野県にしても、
10台に4台は一時停止しないワケだが。
そして、三重県に至っては、何と、
100台に1台しか一時停止しない……。
う~む。これは、何故なんだろうか?
もはや、ここまで、
一時停止しないのが「当たり前」になると、
一時停止することで追突される危険すら生じる。
本当に、怖い話だ。
2017年11月9日、
朝日新聞の「私の視点」に掲載された記事がある。
要旨は、次のとおり。
「日本では、信号機のない横断歩道では
歩行者がいても車は止まらない。
私の母国イギリスやオーストラリアでは車は必ず止まる。
それがルールだからだ。日本の道路交通法でも
歩行者優先で車の停止が定められているが、
ルールが守られていない。歩行者と車のあいだには
日本人独特の「あうんの呼吸」があって、
その中でいつ渡るかを決めているようだ。
ただ、外国人は「日本人は親切で礼儀正しい」
と信じているので、車が止まると思い込み、
事故にあう人が出かねない。」
この記事を投稿したのは、
名城大学准教授のマーク・リバック氏。
同氏は、英国ロンドン生まれで、
日本人と結婚して20年以上日本で暮らしているが、
今も、日本では車が信号機のない横断歩道で止まらず、
歩行者を優先させないことに戸惑っているそうだ。
そして、リバック氏の母親は冗談半分に、
日本の横断歩道のことを、
「キラーゼブラ(=「人を殺す横断歩道」の意)」
と呼んだという。
歩行者を守るべき「安全地帯」であるはずのものが、
歩行者を殺しかねない「殺人ゾーン」と化している、
との痛烈な皮肉だ。
本当に、このことは、真剣に考えねばならない。
私も、この「キラーゼブラ」という表現を聞いたとき、
自らの運転意識を戒め、以後は、横断歩道手前では、
「必ず徐行して、歩行者がいれば必ず一時停止」
という本来のルールを励行できるよう努めている。
それでも、うっかりして、
一時停止をし損ねることは、いまだにあるが。
まあ、逆に言えば、
これだけ励行されていない一時停止だから、
警察からしてみれば、
「反則金をゲットしよう」と思えば、
取り敢えず、信号機の無い横断歩道近くで待機。
ということになるのかも知れない。
反則金というのは、刑事罰ではなく、
単なる行政処分に過ぎない。
従って、反則金の納付は、あくまでも「任意」。
ただし、反則金納付を拒否すれば、
刑事事件となってしまい、面倒なことになる。
普通は、それは嫌だから、
反則金を素直に納付する人が、ほとんどだ。
そもそも、道路交通法違反による罰則は、
本来、全て「刑事罰」であり、前科が付く。
ただ、軽微な交通違反全てに刑事罰を科し、
日本国民の大半が「前科者」となったのでは、
刑事罰の抑止力が低下するし、
何よりも、警察・検察・裁判所がパンクする。
そこで、軽微な交通違反については、
「反則金」という行政処分を課し、
それを納めれば、刑事罰を免除しましょう、
というのが交通反則金制度だ。
要するに、某氏は、反則金を納付したことで、
刑事罰は免れた、というワケ。
もちろん、この取締りを不服として、
徹底的に闘うこともできる。
その場合は、司法の場で検察と争うことになる。
ただし、負けてしまえば、今度は、
反則金ではなくて「罰金」を払うことになり、
それは刑事罰であるから、前科が付いてしまう、
というワケだ。
反則金は、青色の告知書なので「青切符」、
罰金は、赤色の告知書なので「赤切符」と呼ばれ、
反則金は、そのまま納めればよいものだが、
罰金は、検察官・裁判官が関与して、
裁判の結果として、命じられた罰金額を納める。
ついでに言えば、
反則金は、国の「特別会計」に入り、
「交通安全対策特別交付金」という名称で、
各都道府県・市町村に分配される。
つまり、反則金は、使い道が決まっている。
一方、罰金は、国の「一般会計」に入るので、
何に使おうが自由ということ。
つまり、警察としては、
一般会計に入ってしまう罰金よりも、
特別会計に入る反則金の方が魅力的なので、
反則金をセッセと稼ぐのは、
必然的に要求されることなんだよね。
それに、何よりも、
罰金だと、面倒な捜査が必要になるが、
反則金は、切符切るだけで楽だからね。
現に、反則金の計上は、毎年、
チャッカリ「予算化」されているので、
よく言われる「ノルマ」というのは、
存在していると言わざるを得まい。
我が家の近所でも、
一時停止ラインの横で、
ドライバーから見えないようにして、
警察官が取締りのために待機している、
なんていう光景をたまに目にするものね。
今回、某氏は、この警察の作戦に、
まんまと引っかかってしまったということ。
もちろん、ノルマ達成の為の取締りというのは、
本末転倒であることは確かだが、
全国各地で、警察の取締りが強化されれば、
いつしか、日本国民の「意識」も変わってくるはず。
外国人から「キラーゼブラ」とまで揶揄される今、
子供・高齢者も安心して渡れる横断歩道を実現すべく、
逆説的ではあるが、
警察にはガンガン反則金をゲットして貰いたい!!