68)なぜ、弁護士+中小企業診断士か
- 2011年6月11日
- 弁護士・資格
なぜ、弁護士なのに中小企業診断士の資格を?
これは、一般の方々ばかりでなく、弁護士仲間からも診断士仲間からも、1度は必ず聞かれる質問だ。
まあ、それほどまでに、この組合せが「珍しい」(現時点での両資格登録者は全国でも数人程度と思われる)ということでもあるのだが、自分の考えを文章化して整理しておくべく、今回は、このテーマで。
私が、中小企業診断士の資格取得を目指した動機は、3つの立場の自分を「成長」させられると確信したからだ。
1つ目は、経営者としての自分。
2つ目は、助言者としての自分。
3つ目は、発信者としての自分。
まずは、経営者として。
ご承知のとおり、我が法曹界は、「法曹人口急増」という外部環境の激変にさらされている。
単純に考えて、市場が膨張するわけでもないのに、競合業者だけが急増するのであるから、激烈な競争社会になることは必至である。
しかも、近時の「過払金バブル」により、一時的に膨張した市場が一気に収縮するのであるから、肌で感じる危機感は相当なものとなるだろう。
まあ、今までの無競争社会が異常というか、単に「恵まれ過ぎていた」だけなのではあるが、今後は、競争を勝ち抜くためのノウハウを身につける必要があるということだ。
従来、弁護士は、ビジネスについては無知・無関心でも、全く「食うには困らなかった」と言えるが、これからは、到底そうはいかない。
自分自身の事務所「経営」について、いよいよ真剣に考えていかねばならない時代に突入したのだ。
ということで、資格を取るかどうかは別にして、経営のセオリーについて深く学んでおくことは必須であると確信したわけで、中小企業診断士の勉強というのは、その為の格好の手段であった。
中小企業診断士の勉強は、本当に幅広い。
このように幅広い視点で物事を考察できるようになっただけでも、私にとっては素晴らしい財産となった。
次に、助言者として。
弁護士と中小企業経営者との距離は、今なお、本当に「遠い」。
このことは、私の挨拶文にも書いたとおりだが、これからの弁護士は、この状態を是正していかねばならない。
距離が遠い理由は、大きく分けて2つある。
1つは、弁護士自体の「敷居の高さ」である。
そもそも、弁護士に相談したり依頼したりすると、とんでもない高額請求をされるというのが世間的な認識のようで、これでは、「ちょっとした気軽な相談」という気には到底ならない。
2つは、弁護士の活動フィールドに対する「誤解」である。
どうも、弁護士というのは、「法的紛争を解決する専門家」あるいは「訴訟の専門家」というイメージが強すぎて、我々の所に相談に来るのは、どう考えても「最後の最後」という印象である。
つまりは、時すでに遅しということが多く、「ああ、もっと早く相談してくれていれば……。」と痛感したことは1度や2度ではない。
そもそも、経済的に考えても、「紛争処理コスト」と「紛争予防コスト」を比較すれば、後者が前者よりも圧倒的に「安い」のである。
特に中小企業の場合は、コスト云々というよりも、1つの法的紛争が、企業生命そのものに関わることだって十分あり得る。
つまり、これからの弁護士は、紛争解決のみならず、紛争予防にも尽力していくべきであるし、中小企業経営者にも、弁護士を活用することが紛争予防に資するということをハッキリ認識して頂く必要がある。
ところが、中小企業経営者に対して、いくら「紛争予防の重要性」を長々と説いたところで、「そんなもの必要ない。問題が起きてから相談しても十分に間に合う。」「言ってることは分かるけど、うちにそんな余裕はない。」と言われてしまうのが現実だ。
本来、健康診断(予防医学)と同じで、予防法務は会社経営にとっては非常に有益なのだが、このことに気付いている経営者は圧倒的少数派である。
よく言われることだが、中小企業の経営というのは、
財務 重視
労務 軽視
法務 無視
という傾向になりやすい。
法務というのは、法的なリスク・マネジメントとトラブル・シューティングであるから、何ら問題が発生しない限りは、経営には何も影響しない。
つまり、人間の体で言えば、病気から身を守る「免疫システム」のようなもので、健康でバリバリ働いている世代ほど、健康診断を疎かにしがちなことと良く似た現象だ。
では、どうすれば、弁護士が中小企業経営者と緊密な関係を築いて、予防法務を充実させることができるであろうか。
いろいろ考えた末、辿り着いた結論が「経営支援」だった。
当たり前のことだが、経営者の頭の中は、四六時中「経営」のことで一杯だ。
経営に関して、気軽に相談できる外部の専門家が、たまたま弁護士であったならば、ふとしたことで法律問題を発見できる機会が急増する。
予防法務の真髄は「問題発見」である。
経営者が、そのことを「問題だと思っていない」以上、経営者自らが弁護士に相談することはあり得ない。
まさに、「問題解決から問題発見へ」と我々弁護士が自らのフィールドを拡充する必要があるのであり、その為には、弁護士が日常的に経営者と接することが必要不可欠なのである。
そう。予防法務を奏功させるためには、経営コンサルタントと弁護士を兼ね備えてしまうことが、実は「一番の近道」なのではないかと。
中小企業診断士は、税理士や社会保険労務士とのダブル・ライセンスが多く、これはこれで理に適ったものなのだが、私は、あえて、弁護士+中小企業診断士という組み合わせこそが、経営者にとって最良なのだと言いたい。法的リスクの「発見」は、訴訟という局面を知り尽くした弁護士でなければ困難だからだ。
したがって、後輩の弁護士たちも、弁護士としての力量に自信が持てるようになったら、是非とも、中小企業診断士にチャレンジして欲しいものだ。
そして、日常的な経営相談というものが浸透していけば、弁護士の「敷居の高さ」も自ずと解消されていくはずだ。
最後に、発信者として。
弁護士業界に競争原理が導入されるということは、弁護士自身が、数ある弁護士の中から「選ばれる」立場になることを意味する。
つまり、これからの弁護士は、どんどん自分をアピールしていかなければ、淘汰されてしまうということだ。
専門家としてのアピールというのは、詰まるところ「情報の発信」である。
私自身も、今後、ブログ・書籍などの執筆活動、セミナーなどの講演活動に力を入れていきたいと思っており、中小企業診断士の資格取得は、発信できる情報量、つまり、執筆や講演のネタを劇的に増大させてくれるものである。
事実、中小企業診断士という資格を取得したお蔭で、早速、セミナー講師の依頼や雑誌の取材など、ありがたいチャンスを頂戴している。
今後、どんな「出会い」が待ち受けているか、本当に楽しみである。
最後に、仕事とは関係のない宣伝を1つ。
今月18日に発売予定の「プレジデントファミリー8月号」に私の記事がチラッと載る予定である。
もし、書店でお見かけになったら、ちょっと立ち読みでもして頂ければと。
本誌は、中学・高校受験の親向けの教育雑誌で、受験生の親という立場から取材を受けたという次第。
ただ、この取材も、本ブログがきっかけであり、中小企業診断士に合格するということがなければ書かなかった記事なので、資格取得のお蔭と言えるのだ。
要は、情報を発信し続けていれば、いつかきっと何らかのリアクションがあるということなのだろう。現代は、誰もが情報発信者になれる時代ゆえ、是非とも、みなさまも、何かしらの情報発信を。