83)会費という参入障壁
- 2011年12月17日
- 弁護士・資格
昨日(12月16日)の朝日新聞(朝刊)に次のような記事が載っていた。
(引用はじめ)
弁護士未登録 過去最多2割
合格者急増、就職難か
新司法試験に合格し、14日に司法修習を終えた弁護士志望者のうち約2割が弁護士登録をしなかったことが日本弁護士連合会のまとめでわかった。
弁護士急増による「就職難」で弁護士会費などを払える見通しがたたず、登録できない志望者が多いとみられる。
未登録者の割合は、新司法試験合格者が就職を始めた2007年以降の同時期で最も高くなった。
(引用おわり)
弁護士として活動するためには、日本弁護士連合会という全国組織と各都道府県に1つずつ(東京と北海道は複数)ある52の弁護士会(これを「単位会」という)のどれか1つに登録しなければならないが、登録した以上は、毎月キチンと会費を納入する義務が発生する。
ところが、法律事務所などに就職できなければ、いきなり独立開業するという選択をしなければならず、それでは会費を払える見通しが立たないから、弁護士登録にすら踏み切れないというワケだ。
そのような者が弁護士志望者の2割もいるというのだからオドロキだ。
そもそも、弁護士登録をして弁護士活動(=経済活動)を開始しなければ、いつまでたっても会費を払えるようにもならないのだから、結局、弁護士という道自体を断念して、他の職業に就くしかないと考える者も出てくる。
つまり、高い弁護士会費が新たな「参入障壁」となっているのだ。
高い参入障壁が存在する業界というのは、慢性的に「需要>供給」という状態が続くから、みんなが「おいしい」思いを享受することになる。
従来の弁護士業界は、まさしくそういう状態であった。
もしも、既存の弁護士が、この新たな「参入障壁」を奇貨として、高い会費を維持し続けるならば、結果的には、弁護士の人数はある一定レベルに抑えられ、競争の激化を相当程度食い止めることができるのかも知れない。
だが、既得権益を死守しようとする者たちのモクロミは、必ず国民に見透かされてしまう。
そして、国民の支持が得られない業界は、いずれは潰されてしまう。
高い会費を維持し続けるなどという姑息な自己保身に出るのではなく、如何にして、自らが「選ばれるプロフェッション」に成長するかという自己研鑽に没頭するしかないのだ。
弁護士会費というのは、とにかくバカ高い。
各単位会によって会費は違うが、年会費は60万円~120万円ほどだ。
いきなり独立開業して、1件の受任も期待できない中で、こんなバカ高い会費を払える自信は持てないはずだ。
なんでこんなに会費が高いのかというと、単に弁護士会館の地代家賃や事務職員の人件費等の「組織を維持するコスト」だけでなく、弁護士会が独自に実施する「公益活動の費用」も会費を原資としているからである。
つまり、公益活動を担当した弁護士には一定の日当・実費が支給されるのだが、その原資となっているのが会費というワケだ。
毎年毎年、すごい勢いで弁護士数は増えており、それと比例する勢いで人件費等のコストや公益活動の費用が増大しているはずはないのだから、会費というものは、毎年毎年、どんどん下がっていかなければおかしい。
だが、会費値下げを断行する単位会は少数である。
その本音が既得権益の保持にあるのならば、情けない限りだ。
仮に、弁護士数を増やすことが国民の意思ならば、高い会費設定によって実働できる弁護士数を抑制することは国民の意思に反することになる。
そして、高い弁護士会費の設定で、新人弁護士の業界参入を阻んでいるのだとしたら、彼らの職業選択の自由をも侵害していることになろう。
何しろ、弁護士会に登録できなければ、弁護士という職業を選択することすら出来ないのだから。
弁護士会費というのは、実に、他の士業の会費の10倍くらい高い。
最近、中小企業診断士という資格を取り、他の士業の方とも頻繁に接触する中で、弁護士業界の特殊性を実感するようになった。
まあ、私も、これまでは既得権益の恩恵を受けた世代であるから、弁護士会費が高いという感覚すらなかったのが本当のところだ。
そして、中小企業診断士の会費の「安さ」にも思わずビックリしてしまった。
弁護士急増時代を迎える今、弁護士に最も必要なのは、何よりも「普通の感覚」なのかも知れない。