116)年収300万円時代の到来?
- 2013年3月3日
- 弁護士・資格
ふい~~っ!
ようやく、毎年恒例の「確定申告」作業が終了した。
昨年は、予想どおりの「増収減益」であった。
新事務所開設に伴い、ジャンジャン経費を使ったので、まあ「減益」は当然としても、「増収」というのはホントに有難いことだ。
実は、平成18年に一度「減収」を経験したことがあるのだが、それ以外の年は、お陰様で、ずっと前年比で「増収」を記録させて頂いている。
これも、ひとえに、シッカリと固く繋がらせて頂いている方々のお蔭に他ならないのだ。
ホントに感謝・感謝・感謝だなあ。
さて、確定申告作業に追われるこの時期になると、例年、否応なしに、わが弁護士業界の経済情勢に思いを馳せてしまうワケだが、ちょっと前に、こんな記事がネットに出ていた。
「年収70万円以下?客の金に手を出す貧乏弁護士の懐事情」
http://president.jp/articles/-/8359
この中では、2009年の国税庁の統計が紹介されており、それによると、2009年の東京を拠点とする弁護士1万5894人のうち、その3割に当たる4610人の年間所得が70万円以下だったとのこと。
年収70万円以下?との見出しがセンセーショナルだが、もちろん、これは計算上の「所得」なので、実際に手にした「収入」ではない。
まあ、現実収入が70万円では、生活保護基準にも満たないワケで、東京ではまともに生活できないだろう。
ちなみに、東京都区部における単身者(20~40歳)の生活保護基準は、月額で13万円強になるので、年収70万円というのは、生活保護基準の半分以下という計算になる。
で、年間の「所得」が70万円ということは、年間の「収入」としては、ザッと300万円くらいだろうか。
個人事業主の場合、自宅を事務所兼用にしていれば、家賃の一部を経費にできるし、同様に、水道光熱費や通信費、交通費、新聞図書費、接待交際費、さらには、自動車の減価償却費に至るまで、その一部を経費に計上できる。
つまり、生活費の一部を経費にできるので、所得が70万円しかなくても、何とか生活は成り立つという計算になるのだ。
だが、それにしても、東京に居住して年収300万円ではツライはず。
巷では、いろんな経済評論家が「年収300万円がスタンダードになる時代が到来する」との予測をしているが、弁護士業界も、いよいよ「年収300万円時代の始まり」を迎えたということなのか?
市場における需要と供給のバランスによって「商品価値」が決まる以上、需要が一気に縮小し、供給が一気に拡大した現状では、弁護士の商品価値が一気に下落するのは当然と言えば当然のこと。
平成18年にロースクール卒業生を対象とした新司法試験がスタートし、ものスゴイ勢いで弁護士人口が増加し続けていることは御承知のとおり。
私が、三重弁護士会に入会した当時、会員数は60名強だったが、現会員数は160名にまで達している。
このままでいけば、アッという間に200名を超す日が到来する。
一方、弁護士が活躍できる市場の開拓は全く実現されていない。
と言うより、一時的な「バブル市場」が登場してしまったので、みんながバブルに踊らされ、市場開拓の努力を弁護士自身が怠ってきたということなのかも知れない。
2006年1月に最高裁が過払金バブルを生む契機となる画期的判決を下し、過払金バブルがスタートした。
多くの弁護士が、このバブルに傾倒し、濡れ手で粟の状態に至った。
派手なテレビコマーシャルを展開する大手事務所が続々登場し、零細な個人事務所でも億単位の売上を記録したなんていう話が飛び交ったりもした。
このバブルは4年半ほど続き、2010年9月の武富士倒産という一大ニュースが全国を駆け抜けて、一気に終焉へと向かっていった。
そして、皮肉なことに、過払金バブルの崩壊と引き換えに、2012年には消費者金融の業績が回復し始め、株価も一気に上昇し始めたのであった。
そうなのだ。
バブル時代、一気に市場が拡大したかのように「錯覚」したため、弁護士急増を肌で感じることがなかったというワケ。
バブルが崩壊し、市場が一気に縮小する中、気づいてみれば、あまりに急激に増えすぎた同業者の数。
過払金バブルにドップリと依存していた弁護士たちは、途方に暮れるしかなかったろう。
所得70万円(年収300万円)の弁護士たちは、過払金バブルの波にも乗れなかった「即独組」(修習終了後いきなり独立開業する弁護士)が大半を占めるはずだ。
先日、三重弁護士会に新しく入会した弁護士の中で、こんな挨拶をする者がいた。
いわく、「某県で新人登録した後、一旦、退会して海外で暮らしていました。新人の時は、過払金バブルでウハウハだったので、そんな調子で何とかなるだろうと思って、当地で開業しましたが、今は、会費を払うだけで精一杯です。先輩方、何でもやりますんで、仕事を回して下さい!」と。
東京だけでなく、三重のような地方にも、着実に「年収300万円時代」が到来しつつある感じだ。
ただ、よくよく考えてみれば、今までの弁護士が「特権階級」だっただけで、最初の3年間くらいは「食えない」なんていうのは、ほとんどの士業では常識に近い話だ。
今までの弁護士と言えば、100%近くの者が法律事務所に就職していたが、今後は、
・法律事務所への就職
・いきなり独立開業
・一般企業や公的機関への就職
の3パターンに分かれていくことだろう。
いきなり独立開業する場合、3年間は「食えない」覚悟で、ひたすら「種まき」活動に没頭できるか、そこが勝負の分かれ目である。
従来の弁護士像を基準にすれば、食えないというだけで「違和感」があるのかも知れないが、他の士業では、みんな普通に経験していること。
私が縁を頂戴している中小企業診断士だって同じだ。
みんな、その3年間の「種まき」を必死にこなし、ようやく4年目以降で順次「収穫」時期を迎え始めていくという流れなのだ。
そのような長期的な覚悟がなければ、最初から一般企業や公的機関へ就職すべきである。
社会で何らかの活動をする以上、法的問題とは無縁でいられないのであるから、身につけた法的思考力は、就職先でも絶対に活きてくる。
そして、弁護士資格を有すること自体が、就職活動にも有利なはずだ。
法廷に立つことだけが弁護士の仕事ではないので、企業内弁護士も大いに結構な選択である。
ところで、士業が「一人前に稼いでいく」ためには、
・カネ(金=資金)
・コネ(コネクション=人脈)
・カンバン(看板=知名度)
のどれか1つは充実していなくてはならない。
カネがあれば、頻繁な宣伝広告を打てるし、事務所もドンドン拡大できる。
コネがあれば、紹介の連鎖が期待できる。
カンバンがあれば、商圏の拡大が期待できる。
私の同期で、医療過誤を専門とする東京の弁護士がいる。
彼は、ブログが大変に人気で、ブログを営業ツールにして、北は東北から南は九州まで、全国から依頼を受けているそうだ。
医療過誤の分野において、彼は、シッカリとカンバンを築き上げたのだ。
だから、今では、医療過誤以外の分野は一切やっていない。
例の過払金バブルで、カネをシッカリ貯めた大事務所は、豊富な資金力を駆使して、次なる展開を模索しているはず。
私は、幸か不幸か、過払金バブルには全く乗らなかったので、投資に回すようなカネは一切無い。
だが、その間、シッカリとコネだけは作ってこれた気がする。
今あるのは、結局のところ、そのコネのお蔭だと言ってよい。
目の前の仕事をコツコツとこなしながら、コネをドンドン強固にして、何とか自分なりのカンバンを築いていくことが今後の課題かなあ。
まあ、詰まるところ、コネもカンバンも、最後は「人間性」なんだよね。