沈思雑考Blog

ソレイユ経営法律事務所の代表である弁護士・中小企業診断士
板垣謙太郎が日々いろいろと綴ってゆく雑記ブログです。

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175)いざ司法過疎地へ!

2015年2月27日、三重県熊野市において、「熊野ひまわり基金法律事務所・所長就任祝賀会」が開催され、私は、主催者側の代表として出席させて頂いた。

まずは、「ひまわり基金」って何?ということだろうから、そこからご説明を。

日本は法治国家である。
簡単に言えば、あらゆる紛争が、最終的には「司法」という「法的システム」によってのみ解決されるということ。
従って、法治国家の構成員である国民は、全員が等しく「いつでも、どこでも、手軽に」法的サービスを享受できなくてはならない。

つまり、国民全員の「司法アクセス」が保障されて初めて、日本は真の法治国家になるということなのだが、その国民と司法の「架け橋」となるべき存在は、言うまでもなく、弁護士・弁護士会ということになる。

国民と司法の架け橋として、法律事務を独占している弁護士・弁護士会には、国民全員が「いつでも、どこでも、手軽に」法的サービスを享受できるよう、その基盤整備を実現していく重大な責務が課されているとも言える。

ところが、自由競争原理に身を委ねる限り、弁護士は、どうしても都市部に集中してしまう。
これはこれで仕方がない。
弁護士業だってビジネスである以上、事業として「食える」場所に集中するのは当然。

ならば、司法アクセスが不十分な地域(=司法過疎地)には、弁護士会が「公設」の法律事務所を作って、そこに任期制で弁護士を派遣したらどうか?ということでスタートしたのが、この「ひまわり基金」制度なのである。

この基金は日弁連が主体となって運営しているが、その原資は、言うまでもなく日本全国の弁護士たちが負担する会費である。
つまり、日本中の弁護士たちがひまわり基金を支えているというワケだ。

ひまわり基金によって設立された公設事務所は、これまでのところ、実に全国113ヶ所にも及ぶ。
うち現在も運営中なのが63ヶ所だ。

あれっ、あとの50ヶ所は?
何だよ~、結局は、採算がとれなくて廃止?

いやいや、これは、公設事務所に派遣された弁護士たちが、その地域にスッカリ根付いて、任期満了後も「地元に定着」して自前の法律事務所を立ち上げたため、公設事務所の必要性が解消したから、という極めて前向きな理由によるものだ。
ホントに素晴らしい!

司法過疎地に使命感から公設事務所を開設する弁護士会。
その公設事務所に高い志を以て赴任していく弁護士たち。
そして、その原資たる基金を支える日本全国の弁護士たち。

まあ、私もその弁護士の端くれなのではあるが、何というか、こういう崇高な思いに接すると、とっても清々しい気持ちになるよねえ。

で、今回、新たに就任した「熊野ひまわり基金法律事務所」の新所長は、何と6代目。
熊野の公設事務所は、これまで開設された113ヶ所のうち、9番目に開設された非常に歴史のある事務所なのである。

私は、たまたま、初代所長就任時と3代目所長就任時に弁護士会の副会長職にあったので、主催者側として所長就任祝賀会に出席させて頂いた。
従って、今回で、3回目の出席となったワケだが、今回は特に感動したなあ。

今回就任された6代目所長(女性)は、ご夫婦で弁護士をされており、ご主人を連れて、夫婦そろって公設事務所に赴任されたのである。
弁護士を志した頃から「司法過疎地へ赴任したい」との熱い思いがあったそうで、その熱い思いを貫徹したご本人も素晴らしいし、その熱い思いに見事に応えたご主人も素晴らしい!の一言に尽きるよねえ。

この「ひまわり基金法律事務所」は、公設事務所とは言っても、基金から経済的支援をするだけであり、経営自体は、派遣される所長に全て託されている。
従って、地域で頼られる存在として、バリバリと法的サービスを提供できる「即戦力」が備わっていなければ、とても所長としての役割は果たせない。

そこで、この「ひまわり基金法律事務所」に派遣する弁護士を「養成するための事務所」も必要になってくるというワケだ。

で、そのような養成事務所を開設するために、さらに様々な「基金」が作られている。

第二東京弁護士会には「フロンティア基金」というものがあり、一般の弁護士が敬遠する不採算事件を専門に受任し、司法過疎地へ派遣する弁護士を養成する「都市型公設事務所」を開設・運営している。
また、北海道弁護士会連合会には「すずらん基金」が、東北弁護士会連合会には「やまびこ基金」が、九州弁護士会連合会には「あさかぜ基金」があり、同様の趣旨で都市型公設事務所を開設・運営している。
さらに、東京・横浜・大阪・岡山などには、弁護士会が資金援助する「パブリック法律事務所」が存在する。

このような公益活動を日々実践している弁護士たちには、ホントに頭が上がらないよね。
そして、こういう地道な活動こそが、弁護士全体への「厚い信頼」に繋がるはず。

公設事務所の開設・運営が順調なのは、弁護士の数が増えたことと無関係ではない。
一昔前なら、敢えて、司法過疎地へ赴任しようなどという志の高い弁護士を見つけるのは、相当に困難だったに違いない。

だが今や、ひまわり基金法律事務所への赴任は人気で、倍率は約3倍だ。

司法過疎地とは言っても、法律問題が無いワケではない。
採算がとりにくいというだけで、相談事は山ほどある。
だから、その「やりがい」は半端なものではない。

そして、全ての案件を所長1人で対応するのだから、法律家としての実務能力も鍛えられるし、経営センスだって磨かれる。
何よりも、相当額の所得保証もあるので、「食えない」という心配すらない。

従って、若手弁護士にとっては、とっても魅力的な選択なのだ。

弁護士の数が増えて、競争が激しくなり、会費負担が重いと嘆く若手弁護士も多い。

だが、公設事務所のごとく、自由競争原理の外にある公益活動を実践していくためには、どうしても会費負担は重くなってしまう。
よって、会費をドーンと下げることは難しい。
というか、ほぼ不可能だ。

むしろ、弁護士会としては、司法アクセスの改善という公益活動を実践していく中で、弁護士が活躍できるフィールドをドンドン開拓していって、全ての弁護士が、最低限の所得を確保できるような政策を地道に展開していくしかない。

まあ、何度も言うけど、「恒産なくして恒心なし」だからね。

一説によれば、世の中の法的紛争のうち、弁護士に相談できているのは30%程度に過ぎないそうだ。
つまり、司法アクセスを改善する余地は、ま~だまだあるということ。
だから、弁護士会が実践していくことも、ま~だまだあるということ。

従来は、全ての弁護士が、法律事務所での勤務弁護士を経て、やがては経営弁護士になっていく、というたった1つの弁護士モデルしか存在しなかった。

だが、これからは、一般企業や自治体に就職して法務分野で活躍するという選択もアリだし、公設事務所や法テラス事務所を渡り歩くという生き方もアリである。

日本社会のあらゆる所に弁護士が行き渡ることで、結果的に、弁護士がごくごく身近な存在となれば、司法アクセスがドンドン改善され、開業している弁護士の受任件数も増える。

これこそが、国民と弁護士の「ウィン・ウィン」関係ということだよね。