31)特上カバチ
- 2010年2月15日
- 弁護士・資格
日曜夜9時からTBS系で放映中の「特上カバチ!!」という番組をご存知だろうか。
同番組のホームページによれば、「法律を駆使する<法テク>を武器に、弱者を救うべく奮闘する、行政書士補助者の熱血ストーリー」と紹介されている。
ちなみに、「カバチ」とは広島弁で「屁理屈」の意味だそうだ。
主人公の行政書士補助者を演じるのが「嵐」の櫻井翔君であり、嵐ファンの娘たちは、内容云々よりも、櫻井君見たさに毎週欠かさず見ているので、結果的に、我が家では家族全員で毎週見ているという次第。
さて、「行政書士」と聞いても、ピンとくる人は少ないはず。
行政書士法によれば、行政書士は、他人の依頼を受け、報酬を得て、「官公署に提出する書類の作成」「権利義務または事実証明に関する書類の作成・代理」「行政書士が作成することのできる書類作成についての相談」などをすることが出来るとなっている。
つまり、基本的な業務は「書類作成」である。
だが、ドラマの中では、行政書士が、思いっきり「法的紛争に関する交渉」をしており、これを業務として「有償」で引き受けていたとしたら、弁護士法に違反する行為となってしまう。
日本の資格制度は、諸外国に例がないほど、実に分かりづらく出来ている。
分かりづらい理由は、以前にも述べたとおり、「縦割り行政」の弊害だ。
法律専門職と呼ばれる資格だけでも、弁護士以外に、司法書士、行政書士、社会保険労務士、海事代理士、弁理士、税理士、などなど多数存在する。
監督官庁をザッと見てみれば、司法書士=法務省、行政書士=総務省、社会保険労務士=厚生労働省、海事代理士=国土交通省、弁理士=経済産業省、税理士=財務省、となっており、見事な「縦割りぶり」と感心せざるを得ない。
要するに、各士業は、「縦割りされた法律分野」ごとに権限が付与されているという仕組みなのだ。
ところが、弁護士は、「法的紛争を解決する」のが主たる職務と位置づけられ、この「法的紛争分野」(最終的には訴訟ということになる)こそが他の士業が立ち入ることの出来ない分野なのである。
もっとも、厳密には、一部の分野では、規制緩和により他の士業に開放されている(司法書士の簡裁代理権など)が、詳細は割愛する。
つまり、他の士業同士が「縦割り区分」の職域争いだとすれば、弁護士と他の士業とでは、紛争化しているか否かという「横割り区分」の職域争いということになるのだ。
この入り組んだ規制構造自体が、各士業の職域問題を複雑化させている最大の要因である。
いずれにせよ、ドラマに出て来る行政書士は、弁護士法違反の行為をしている可能性が高いということを、取り敢えずは指摘しておく。
閑話休題。
以下、昨日のドラマに出てきた法的話題を取り上げてみたい。
昨日の大まかなストーリーは、「親がギャンブルで作った自身の借金返済に充てるため、未成年の子(18才)を借主として金融業者Aから200万円を借り入れたが返済できず、債権譲渡を受けた金融業者Bから言われるままに、200万円をチャラにする代わり、子の名義でさらに1000万円を借りたことにして(架空取引)、1000万円の借用証書をでっち上げ、親はそのまま夜逃げした。」というような事案である。
なんてひどい親だ。そんな借金、子が負担する義務などないはずだ。というのが一般的な国民感情だろう。
もちろん、子が親に対して金銭請求できるのは当然だが、ギャンブル漬けで夜逃げする親だから、回収できるはずもない。
結局、1000万円の借用証書が、金融業者との間でも「無効」だということを法的に確定できないと、その子は救われないことになる。
ドラマの中では、1000万円の借用証書の日付欄が空欄だったことに目を付け、未成年の子をすぐに婚姻させ、婚姻届が受理された日の翌日に、借用証書の日付欄を記入させる、というアクロバチックな<法テク>で以て解決している。
民法753条には、「成年擬制」という規定があり、未成年でも婚姻した場合は、成年とみなされるのだ。
つまり、もはや親の「親権」に服さなくなるので、親は「法定代理権」を有さず、代理権なき者がした契約なので「無効」という論法だ。
ただ、未成年者の婚姻には父母の同意が必要なので(民法737条)、親が既に夜逃げしている状況下では、親の署名を第三者が偽造したということになろうから、違法行為を駆使した<法テク>ということになり、感心は出来ない。
まあ、フィクションのドラマに一々目くじら立ててもしょうがないが…。
ドラマでの解決手法は別として、オーソドックスに考えると、子の救済はそう簡単ではないということになる。
まず、親が勝手にしたことなのに、何で子が1000万円もの借金をすることになるのか、という素朴な疑問があろう。
しかし、民法824条によれば、親権者は未成年の子の「法定代理権」を有しているので、基本的には、子の意思を無視して契約が出来るということだ。
もちろん、親自身のギャンブルの尻ぬぐいを子にさせるなんていうのは言語道断だから、民法826条では「利益相反」の場合は契約は無効になるという趣旨の規定が置かれている。
この点は、ドラマでは一切触れられていなかったが、「利益相反」というのは、要するに、「親が得すれば、子が損する」という関係が成り立つ場合だ。
すると、今回のケースは、まさしくズバリ当てはまりそうなので、これにて一件落着ということになりそうだが、実はダメなのだ。
いろいろ批判はあるが、最高裁判例は、「外形説」という判断基準を設定し、親の「動機・意図」といった内心は無視して、外形(書面)から判断できる範囲で親子の利害が対立するかどうかを判断するとしているので、この場合は、なんと「利益相反にならない」という救われない結論となる。
もう少し分かり易く言うと、今回は「子が借主」となっているだけなので、文面上は、親は当事者として登場しないから、「利害関係はない」という強引な解釈をされてしまうわけだ。
一方、「親が借主、子が連帯保証人」などの場合は、親が返済しなければ(得すれば)、子が返済義務を負う(損する)ことになるので、「利益相反にあたる」というのだ。
あまり納得はできないだろうが、親の内心は分からないので、何も知らない取引相手を保護する趣旨であろう。
さてさて、利益相反がダメとなると、弁護士としては、「権限の濫用」を検討することになる。
最高裁によれば、親権者がその法定代理権を濫用した場合、「行為の相手方が濫用の事実を知っていたとき(または、知る可能性があったとき=過失)」は無効と結論付けている。
即ち、弁護士であれば、民事訴訟に持ち込んで、金融業者Bの「悪意」(法律用語で知っていたことの意)や「過失」を立証していくことになろう。
今回のケースでは、そもそも1000万円の金の動き自体がないので、代理権の濫用は証明できる。領収証をしっかり書かされていた場合には、1000万円は親が受け取ったと業者は言い張るだろうが、訴訟の過程で業者を追及していけば、何らかの「過失」は立証できる可能性が十分ある。
くどいようだが、ドラマのストーリーにケチを付けるわけではない。ドラマはドラマとして大変面白い。うちの子も夢中で見ている。
だが、文書偽造という犯罪まで犯し、子の戸籍も汚してしまった挙げ句、結果的に、相手方が過去の日付を記入してしまったら元も子もなかったわけだ。
民事訴訟に至れば勝訴の可能性があるし、ましてや、金融業者Bがヤミ金ならそもそも返済義務すらないので、勝訴は確実となる。
やはり、「法的紛争は弁護士に依頼すべし」という当たり前の結論に落ち着く。