58)中小企業診断士とは
- 2011年1月23日
- 弁護士・資格
一言で表現すれば、「経営コンサルタントの国家資格」ということになる。
資格試験予備校のパンフレットでは、必ずと言ってよいほど、「経営コンサルタントとしては『唯一の』国家資格」ということが強調されている。
とは言え、コンサルをやるのに資格など必要ない。大前研一氏が中小企業診断士の資格など持っているはずもない。そもそも、「俺は大企業しかコンサルしない!」などと言うに決まってるし。
それに、唯一の経営コンサルタント国家資格というわりには、名称も何だかピンとこないし、カッコよくもない…。
前にも述べたとおり、国家資格としての「士業」のほとんどは、「行政補助職」という位置付けから出発している。
例えば、司法書士というのは、「司法に関する書類を作成する専門家」という意味合いであるが、ご存知のとおり、今や、司法書士の活動分野は、司法(裁判所・法務局など)に関する書類作成(訴状・登記申請など)には限定されない。
実際の活動内容からすれば、民事法全般に関する「法務コンサルタント」という感じにまでなってきている。
そこで、司法書士会では、司法書士というネーミングを「法務士」にすべきだという議論まで巻き起こったそうだ。
まあ、要は、行政側の都合で国家資格のネーミングが為されるので、その後、活動範囲を拡大してきた国家資格の多くが「名が体を表していない」状態にあるのだ。
弁護士だって、刑事「弁護」だけで食べてる弁護士などほとんどいないわけだし。
ということで、中小企業診断士もシカリなのである。
もともと、中小企業診断士というのは、行政が中小企業に公的融資をしたり、補助金や助成金を拠出したりする際に、その適格性を審査にするために、文字通り、中小企業を「診断」する要員として創設された資格であった。
その根拠となっていたのは、「中小企業『指導』法」という法律で、中小企業は、「お上から指導されるべき弱い存在」という位置付けだったのだ。
実は、中小企業診断士という名称自体は、昭和44年から存在するのだが、長い間、中小企業診断士は国家資格ですらなかった。
中小企業診断士が国家資格に昇格したのは、2000年(平成12年)からである。そう、ごくごく最近なのだ。
この時、法律が改正されて、従来の中小企業指導法は、「中小企業『支援』法」へと名称変更し、内容もガラリと変わった。
つまり、中小企業は、お上から指導される弱い存在ではなく、「日本経済のダイナミズム(活力)を支える力強い存在」と位置付けられるようになり、そのような中小企業を国家全体で支援しよう、という方向性になったのである。
そして、晴れて国家資格となった中小企業診断士の国家試験は、2001年からスタートし、私が合格した2010年で、ようやく10回目の国家試験を迎えたというわけだ。
結果、試験制度も従来とは相当違うものとなった。
国家資格への昇格ということで、相当に気合いを入れたのかも知れないが、かなりハードな試験へと生まれ変わってしまったのだ。
受験生にとっては、甚だ迷惑な話であるが…。
試験は年に1回で、8月の1次試験(マークシート方式)、10月の2次筆記試験(記述式)、12月の2次口述試験と3つのハードルが設定され、合格しないと前には進めない仕組みだが、1次試験は、1度合格すると2次筆記試験を2回受けるチャンスが与えられる。
私の場合、2009年の1次試験は合格したが、2次筆記試験で落ちてしまったので、翌年は2次試験1本に絞って、何とか合格できたという次第。
なお、試験に合格しただけでは中小企業診断士としては「登録」できず、実際に3社のコンサルティングを行う「実務補習」を経て、ようやく登録ということになる。
実際に受験してみた感想は、業務独占資格ではない士業としては、おそらく最高ランクの難度であろう。
私も、最初は、ごく軽い気持ちで勉強を始めたが、時間が経つにつれて、その本気度を上げ続けなくてはならなかった。最後は、本当に必死だった…。
この試験の最大の難しさは、何と言っても、2次筆記試験の「掴みどころの無さ」にある。
1次試験は、単なる知識試験なので、勉強さえすれば何とかなる。
1次試験の科目は7科目あり、具体的には、企業経営理論、運営管理(オペレーション・マネジメント)、中小企業経営・中小企業政策、経済学・経済政策、財務・会計、経営情報システム、経営法務、の7つである。
1科目60~90分で、2日間に渡って実施される。
大学の「文系学部勢揃い」(+情報工学)といった感じで、とにかく学習分野はやたら広い。
勉強の習慣がないと、この広さに圧倒されてしまうかも知れないが、これだけの量を「深く」学習することは到底不可能なので、基本的には「広く・浅く」という学習で足りることになる。
1次試験は、勉強アレルギーでさえなければ、勉強量に比例して合格は確実に近づくはずだ。
だが、2次筆記試験は、正解が公表されないので、大手予備校ですら、合格基準がハッキリ分からないと口を揃えるほど、誰もが、その「掴みどころの無さ」に頭を抱えてしまう試験である。
実際、私も名古屋地区で受験できた3つの大手予備校の模試を受けたが、3社とも採点の仕方(基準)からして見事なまでに異なっていた。
つまり、「2次筆記試験とは、こういうものだ!」という捉え方自体が、各予備校によって違うということになる。
結果、1次は早々に合格しても、2次だけで何年も費やす者は多い。
これは、頭の良し悪しの問題ではなく、この試験特有の「掴みどころの無さ」に起因する現象だ。
2次筆記試験は、4つの事例が提供され、事例ごとに4~5つの設問に記述式で答えていくという試験である。
4つの事例は、それぞれ、組織・人事に関する事例、マーケティング・流通に関する事例、生産・技術に関する事例、財務・会計に関する事例と別れる。
1事例80分で、1日で実施される。
4つの事例の中で、財務・会計の計算問題だけが、唯一、正解がハッキリしていて「掴みどころのある」問題なのだが、意地の悪いことに、最後の最後が財務・会計なので、例年、脳が疲れ切っていて、信じられないような計算ミスを連発する人が続出してしまう。
2010年試験の設問例をちょっとだけ挙げてみると、次のとおり。
(組織・人事の事例)
食品原材料商社であるA社が事業拡大のために、食品原材料以外の商材に手をのばすべきかどうか、中小企業診断士としてA社社長からアドバイスを求められた。どのようなアドバイスをするかについて、100字以内で述べよ。
(財務・会計の事例)
D社の平成21年度の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比べたこの企業の財務上の長所または短所のうち、重要と思われるものを3つ取り上げよ。その各々について、長所または短所の根拠を最も的確に示す経営指標を1つだけあげて、……、その長所または短所について、D社のこれまでの経営状況に照らして…60字以内で説明せよ。
まあ、問われていること自体は分かる。1次試験をクリアーした者が受けるのだから、み~んな「似たような解答」は書く。
だが、それでも8割の者が落ちてしまうのだから、そこにはハッキリした判断基準があるはず。
その判断基準自体がシークレットなので、よく分からないのだが、私自身、1年余計に勉強したお陰で、2年目に突入して、「なるほど!そういうことだったのか!」という「気付き」は何度も経験したし、ボヤーっとではあるが、「この試験は、結局のところ、こういう試験なんだろうな。」という自分なりの尺度は持てるようになった。
私が2次試験の本質的なものを何となく掴めるようになったのは、Tという大手予備校のM先生のお陰である。前述のとおり、2次試験の捉え方は幾通りも存在する。自分の好みにあった予備校講師と出会えるかどうかもカギとなろう。私は、M先生の講義がシックリきたので、非常にラッキーであった。
M先生には、先日も直接お会いして御礼を申し上げたが、改めて、この場を借りて、感謝を申し上げたい。
自分なりの尺度を得てからは、答練や模試の成績も安定していき、直前期の各予備校の公開模試では上位1~7%程度に食い込めるようになったので、おそらく方向性は間違っていなかったのだろう。
お陰で、本番には自信をもって臨むことができたし、本番も「模試どおりの感じでは解けた。」という手ごたえがあったので、さほど合否自体に不安はなかった。
だが、万が一ダメだった場合、また1次試験からやり直すだけの「気力」は、もはや残っていなかったので、合格発表の日までは、ず~っとモヤモヤが続いていた……。
くどいようだが、この試験、想像以上のハードさである。
単純な合格率(分母は実際の受験者数)だけ見ても、私が合格した2009年の1次試験(24.1%)と2010年の2次試験(19.5%)を掛け合わせると、数字上は4.7%という狭き門である。
まあ、必死にならないと受かりっこないということだけは確かだ。
とは言え、学習する内容自体がビジネス全般に及ぶので、全ての「働く人」にとって有益なものであり、今や、この資格は、ビジネスパーソンの中では人気急上昇中となっている。
国家資格としての初年度であった2001年の受験申込者数は10,025人だったのに、2010年の受験申込者数は21,309人と、文字通りの「倍増」だ(!)。
今後も、しばらくは、この傾向が続くであろう。
私は、自分なりの考えがあって、中小企業診断士という資格を取得しようと決意したのだが、みなさんも、何か感じる所があれば、自分の「成長戦略」の一環として、何かしらの資格取得を検討されてみては如何だろうか。
何らかの知識やスキルを得ようとしたとき、資格試験というのは最高の「手段」となる。
何しろ、試験日が決まっているので、強制的に学習スケジュールが確立されるし、やはり、落ちるのは誰でも気分が悪いので、それなりに必死で勉強するだろうし。
結果的に、資格を取得するか否かは重要でない。必死で勉強したことで、自分自身は必ず大きな「成長」を遂げているはず。
合格=目的、勉強=手段、という考え方ではなく、勉強=目的、受験=手段という考え方に切り替えてみると、勉強そのものが楽しくなる。
そして、働きながら勉強するからには、勉強時間は「朝」が最も効率的なのであり、そうなると、心身ともに「健康」にも近づくだろう。
まあ、私の場合、相変わらず、肥満からは脱出できていないが…。
とにかく、大人になってからの勉強は、意外にも楽しいもの。
これは、実際に始めてみると、本当に「やみつき」になってしまうくらい。
私自身も、せっかく習慣化した朝の勉強タイムをできる限り継続していきたいし、まだ、掘り下げていきたい分野が結構あるので、今年も、いくつかの資格試験を受けてみるつもりだ。
だが、年1回の競争試験はさすがに疲れるので、もうイヤだという感じ…。今後は、メンタル的にキツクない「お気楽な」検定試験に絞っていこうと思う。
ということで、今日(1月23日)も早速、今年初となる検定試験を受けてきた。
受けてきたのは、2級ファイナンシャル・プランニング技能士という資格。
先ほど、HP上で模範解答が出ていたので、自己採点してみたが、マークミスや記入ミスがない限り、何とか合格できたようだ。
この「2級」という検定試験は、目標とするには、超おススメである。
どんな資格でも、3級以下というのは、やや常識に毛の生えた程度という感じがあるし、1級だと極端に専門的になりすぎ、やたら難しくなってしまう。
その点、2級というのは、専門家としての最低レベルを確保しつつ、教養としては十分に高レベルで、しかも、取得しやすいという「絶妙な位置づけ」なので、いろんな分野の2級資格をどんどん狙っていくという手法も、自分の教養の幅を広げるにはモッテコイである。
そして、これこそが、前にも触れた「T型人材」の「横棒」の長さを伸ばしていくという作業そのものである。
もちろん、若いうちは、自分の専門分野を確立し、ひたすら深めていくことに専念すべきかも知れない。とにもかくにも、まずは「I型人材」にならねばならないからだ。
私も、10年前なら、2つ目の資格を取ろうなんて思わなかったろう。
だが、10年後では、そのようなモチベーションも湧かなかったかも知れない。
まさに、仕事人生の中堅世代で、仕事も家庭もある程度安定している状況だからこそ、様々なことを考え、そして行動できたのかも知れない。
そう思うと、いろ~んな意味で、感謝せねばならないことだらけだ。