140)1万時間の法則
- 2013年11月16日
- 人生・趣味
司法修習生という法曹(裁判官・検察官・弁護士)の卵たちの実務指導を担当し始めて、もう8年になる。
今年も、司法試験にパスしたばかりの三重県配属となった新司法修習生向けのガイダンスがあり、私も司法修習委員会の副委員長として出席した。
その中で、司法修習生の1人から、こんな質問があった。
「1つの専門分野に秀でるには、どれくらいの年数がかかりますか?」
まあ、「そんなもん、個人差あるよなあ。」と思ってしまいそうな質問だが、私が回答したのは、次のような内容だ。
「ビジネス書をよく読む人は御存知かも知れませんが、みなさんは、1万時間の法則というのを聞いたことがありますか?」
30名近い新司法修習生の顔を見渡すと、みな「ポカーン」としていた。
1万時間の法則というのは、「天才!成功する人々の法則」(マルコム・グラッドウェル著、勝間和代訳、講談社刊)という本で紹介されている法則で、要は、その道の「プロ」として秀でるためには、少なくとも1万時間のトレーニングが必要だということ。
この本には、次のような記述が登場する。
「複雑な仕事をうまくこなすためには最低限の練習量が必要だという考えは、専門家の調査に繰り返し現れる。それどころか専門家たちは、世界に通用する人間に共通する【魔法の数字=マジックナンバー】があるという意見で一致している。つまり1万時間である。」
「どの調査を見てもいつもこの数字が現れる。もちろん、だからと言って、一部の者が他の者よりも、練習から大きな成果が得られる理由がわかるわけではない。だが、1万時間より短い時間で、真に世界的なレベルに達した例を見つけた調査はない。まるで脳がそれだけの時間を必要としているかのようだ。専門的な技能を極めるために必要なすべてのことを脳が取り込むためには、それだけの時間が必要だというように思える。」
というワケで、私は、「1年で2000時間を実労働に注ぎ込むならば、1人前のプロになるためには、最低でも5年はかかるという計算になりますね。」と回答した。
裁判官は、最初は「判事補」という身分を与えらえる。
判事補として10年が経過すると「判事」に昇格するが、判事補は、原則として1人で裁判をすることができないと規定されている。
だが、判事補として5年が経過すると、「特例判事補」として1人で裁判をすることができるようになるという、文字通りの「特例」が規定されているのだ。
つまり、5年も経過すれば1人前のプロとして大丈夫!だということが経験的に認知されてきたのであろう。
まさに、1万時間の法則のとおりである。
「藤原和博の必ず食える1%の人になる方法」(藤原和博著、東洋経済新報社刊)という本にも、この1万時間の法則が紹介されており、プロとして「技」を探求していこうとする人は、1万時間を投じて技を習得することが必要不可欠であると述べられている。
では、1万時間のトレーニングをこなしたら、次は2万時間・3万時間、あるいは10万時間のトレーニングを目指すべきであろうか?
もちろん、その道の「頂上」を目指して、ひたすらトレーニングを続けるのも1つの選択肢であろうが、誰もが、イチローになれるワケではない。
残念ながら、その道で世の中の人に認知されるためには、その道で「ナンバーワン」になるしかない。
日本で一番高い山は誰でも知っているが、二番目に高い山を知る者は少ない。
ましてや、三番目に高い山なんて、相当なマニアじゃないと知らないはず。
藤原和博氏によれば、1万時間を費やして、その道のプロになったならば、その道の「トップ」を目指すのではなく、次の1万時間を違う分野に投じて、2つの分野を「掛け算」して「レア」な存在を目指すべきだと述べている。
これは、われわれ凡人が、目指すべき道かも知れない。
その道のイチローを目指そうとすれば、桁外れのトレーニングに加えて、天賦の才能も間違いなく必要であろう。
だが、1万時間を投じれば、誰でもプロになれるのなら、もう1万時間を別の分野に投じさえすれば、2つの分野のプロになれるということだ。
つまり、2つの分野のプロということだけで、十分に「レア」だから、「必ず食える人」になれるというのが藤原氏の見解だ。
私の場合、すでに弁護士としては優に3万時間以上を投じているはずだ。
だが、三重県でトップの弁護士になるのは容易なことではないし、私の目指すところでもない。
それでも、
弁護士 × 中小企業診断士
という「掛け算」なら、三重県で私一人しかいない「レア度」ということになる。
おそらく、日本全国でも100人もいないだろうから、計算上のレア度は、100万人に1人ということになる。
ということで、今後、経営コンサルタントとしても1万時間をシッカリ投じて、その道でも「プロ」と公言できるようになれば、世の中から必要とされる人材になれるかも知れない。
そして、将来的には、執筆活動でもプロになって、
弁護士 × 経営コンサルタント × 執筆家
というレアな存在を目指したいところだねえ。
まあ、このブログも、執筆家になるための貴重なトレーニングだったりするワケっす。