117)ギャンブルへの課税
- 2013年3月22日
- 社会・雑学
今月12日、大阪地裁で、ある課税処分取消訴訟の第1回口頭弁論が開催された。
原告は、元会社員の男性。
求めているのは、8億1600万円(!)の課税処分の取消だ。
この課税処分、何と、競馬の払戻金に対する所得税だという。
6億8100万円の所得税と1億3500万円の無申告加算税とのこと。
なんじゃそりゃ!と叫びたくなる金額だ。
この男性、元手100万円で競馬を始め、インターネットで、全国で開催されるレースの大量購入をし続けていたのだという。
その手法は、勝つ可能性の高いガチガチの馬のみを買い、的中させた払戻金を次のレースの馬券購入費に全て投じるやり方で、雪だるま式に軍資金を増やしていくというもの。
この世界では、「ころがし」と呼ばれている手法らしい。
で、結果的に、5年間で35億1000万円を投じ、36億6000万円の払戻金を得て、1億5000万円の「儲け」を出したとのこと。
ん?
でも、所得税額は6億8100万円だったはず?
そうなのだ。
今回の課税処分は、儲けの1億5000万円に対してではなく、払戻金全額から「当たり馬券の購入金額のみ」を控除した34億円が課税の基準とされたのである。
つまり、「はずれ馬券の購入金額」は「収入を得るための支出」としてはカウントされなかったのだ。
国税庁の見解では、馬券の払戻金は、「一時所得」に該当する。
一時所得というのは、利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得のどれにも該当せず、次のいずれにも該当しない所得のことだ。
1) 営利を目的とする継続的行為から生じたもの。
2) 労務その他の役務の対価としての性質を有するもの。
3) 資産の譲渡の対価としての性質を有するもの。
一時所得となれば、次の金額に所得税率を乗じて課税される。
(収入額~収入を得るための支出額~50万円)×1/2
現在の所得税の最高税率は40%である。
つまり、今回のケースでは、17億円×40%=6億8000万円が所得税額となるという計算だ。
だが、この論法は、どう考えてもムチャだ。
この男性がやっていた「ころがし」という手法は、払戻金を全て次の購入費用に充てるというものだ。
だから、はずれ馬券の購入費用も当然に「必要経費」としてカウントしないと実態にそぐわないはず。
税法の解釈としては、一時所得ではなく「雑所得」とすべきだろう。
雑所得というのは、利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得のどれにも該当せず、次のいずれかに該当する所得のことだ。
1) 営利を目的とする継続的行為から生じたもの。
2) 労務その他の役務の対価としての性質を有するもの。
3) 資産の譲渡の対価としての性質を有するもの。
この男性のやっていた行為は、明らかに1)に該当するはずだ。
雑所得となれば、次の金額に所得税率を乗じて課税される。
収入額~必要経費
どうだろう。
収入から控除する金額の表現が違うことがお分かりだろうか。
一時所得では「収入を得るための支出額」であり、雑所得では「必要経費」である。
そうなのだ。
雑所得であれば、より広く必要経費を認める余地が生じ、問題となった「はずれ馬券の購入金額」も「必要経費」と考えるのが自然なのだ。
そう解釈すれば、今回のケースでも、儲けである1億5000万円に対する課税ということになり、所得税額は6000万円ということなのだ。
どう考えても、この程度の課税とするのが常識的だ。
1億5000万円の儲けに対して、6億8000万円の所得税なんて、非常識としか言いようがない。
そもそも、公営ギャンブルは全て「非課税」にすべきだろう。
ご承知のとおり、今のところ、非課税なのは、宝くじのみだ。
公営ギャンブルは、ただでさえ、高い「テラ銭」を取っている。
テラ銭というのは、主催者である胴元の手数料である。
宝くじでは50%超、競馬・競輪・競艇・オートレースでは25%程度と言われている。
つまり、国は、公営ギャンブルの胴元から確実に税金を徴収できるのであるから、それに参加した客から税金を徴収する必要などないのだ。
そして、ほとんどの人が課税を免れているという現実を踏まえれば、たまたま発覚した人に対してだけ重税を課すのは、公平性に著しく反するというもの。
競馬が当たったからと言って、真面目に税務申告する人なんて皆無に近い。
発覚するのは、本当に「たまたま」が重なっただけのことだ。
どうしても、課税したいのなら、払戻金を支払う段階で「天引き」(源泉分離課税)すべきだろう。
まあ、何だかホットに語ってしまったが、私は、一切ギャンブルはしないので、当事者意識は全くない。
でも、この課税処分は、やはり「非常識」と言わざるを得ない。
国が認めた公営ギャンブルを楽しんだばかりに、国によって家計破綻に追い込まれてしまうという、何とも笑えない話だからだ。
それにしても、ここまでの大金が動いてしまうと、本人は、ギャンブル中毒にでも陥ってしまうんだろうなあ。
私なんぞは、学生時代に、パチンコ好きの人に連れられて、200円を投じて3000円をゲットしたというのが、唯一のギャンブル経験だ。
いわゆる「ビギナーズ・ラック」というヤツだが、幸い、司法試験受験生だったので、その後も、ギャンブルにはまる暇もなく、調子に乗らずにすんだというワケで。
おっとっと…。
パチンコは、ギャンブルではなかったっすね、一応(笑)。